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モーツァルト転生!

(ああ、もっと音楽を楽しみたかったなあ……)

 不世出の音楽の天才ウォルフガング・アマデウス・モーツァルトは死に向かう、薄れゆく意識でそう思っていた。

 彼の短い人生の中で、大衆音楽を作った時期は短い。

 しかし、彼はその時期が一番楽しかった。

 収入は、宮廷音楽家をしているより圧倒的に低い。

 なのにどうしてこうも楽しいのか?

 緊張感もなく、下品な表現も許され、反応はダイレクトだ。


(もっとこういう音楽を楽しみたい。

 私が楽しみたい!

 作らなくても、演奏しなくても、それで良い。

 ああ、もっと気楽に楽しみたい。

 だから、死にたくなんかない!)


 だが、結局この天才は死んだ。


 死んだのだが、どうやらこの世に留まってしまった。

 彼の死から数百年の後……




「オギャーオギャー!」

天出あまでさん、産まれましたよ!

 可愛い女の子です!」

 モーツァルトの生まれ故郷ザルツブルクから遠く離れた日本という国のとある病院で、一つの生命が誕生した。

 皆が愛おしく、新しい命を眺める中で、古き魂は目覚めた。


(なんだ、これは?)

 風景が、その魂が覚えているものと全く違う。

 声も出ない。

 体も違和感がある。

 まるで自分が赤子のように、周りの者たちは扱う。


 その魂は知らぬ事だが、実はこういう事は多数ある。

 胎内にある魂の宿らぬ身体、本来なら死産となるところが、別の魂が入り込む事でこの世に産まれ出る。

 そうした魂は、本来半年と経たぬ内に、乳児の未発達な脳の中で記憶を維持出来ず、自分が何者なのかを表現する事なく、リセットされて新しい人生を歩む。

 本来なら、その魂も自我が無くなり、女の子としての人生が始まる筈だった。


 しかし、その魂が前の人生で創り出したものは、今でも生きていた。

 退院して天出家にやって来た時、偶然にもテレビから流れて来た音楽が、本来なら消える筈の前世の自我を固着させてしまった。


「トルコ行進曲」


 K.331ピアノソナタ第11番第3楽章が聞こえた瞬間

「それは私が作った曲じゃないか!」

 と薄れていた前世の人格が覚醒した。

 無論、乳児を抱く親たちには

「あう、あう、ああうう」

 としか聞こえていない。


「あらあら、優子ったら、どうしたの?」

 第二の人生での、その魂は天出優子と名付けられている。

 本来なら天出優子としての一回目の人生になる筈なのに、たまたま流れていた音楽のせいで、この子はモーツァルトの二回目の人生となってしまったのだ。




 誕生から11年、天出優子は自ら新しい人生を選ぼうとしている。

 モーツァルトとしての人格は、これまでに様々な音楽を聴いて来た。

 自分が死んでからの浪漫派、印象派といった「クラシック」というジャンルに限らず、映画音楽、演歌、ヘヴィメタル、アニメソングまで様々だ。

 モーツァルトは思った

(大体分かった。

 私なら同じようなものを作れる)

 と。

 天才からしたら、大概の音楽は理解出来たし、改良も可能なものだったのだ。

 そんなモーツァルトが感銘を受けた音楽もある。

 一つはボーカロイド曲である。

 何故なら、モーツァルトは人間が歌える曲しか作らないのに、ボーカロイドは息継ぎも不要で高速歌唱が可能なのだ。

 人間の限界を超えた、それでいてきちんと音楽として成立する、それにモーツァルトは意表をつかれたのだ。


 そして、モーツァルトが感銘を受け、これから新しい人生で楽しみたいと思ったもの、それがアイドル曲だった。


 音楽のレベルとしては、モーツァルトからすれば全然大した事はない。

 どんなにその筋では知られた楽曲提供者も、アレンジャーも、プロデューサーも天才から見れば驚くには値しない。

 だが、モーツァルトは客席に感銘を受けていた。


(楽しそうだ!

 大の大人がこんなに楽しんでいる!

 のめり込んで、共に歌い、踊っている!

 これだよ、これ!

 難しい事は要らない!

 ただ楽しければ良いんだ!

 ここまで高尚さから解き放たれた音楽があったんだ!

 私が求めていたものだ!)


 そして天出優子は、渋る親を説き伏せ、とあるアイドルグループのオーディションを受けたのだ。




 結果から書くと、彼女は最初のオーディションに落選する。

 歌のセンスは抜群だった。

「百年に一人の天才かもしれない」

 多分、千年に一人レベルの天才なのだが、芸能事務所ではそこまでは計れない。

 ダンスのレベルも高い。

「リズム感が物凄い!

 ダンス未経験者だとはとても思えない!」

 審査員の評価は高い。

 人生2回目だけあって、あえて泣かせる為の高圧的な指導にも屈しない。

 前世で、音楽もろくに知らない貴族から理不尽な注文をつけられた事に比べれば、言ってる事が

(音楽的に筋が通っている)

(連帯責任的に私も怒られているが、合唱が全体の調和な以上やむを得ない)

 と納得出来るのだ。

 こうしたメンタルの強さも高い評価を受けている。


 天出優子の問題点は、まさにモーツァルトに起因する部分だった。

 合宿審査を共にした女の子たちから、スタッフに対して苦情が寄せられる。


「天出さんが、嫌らしい目で見て来て気持ち悪い」

「天出さんが着替えを覗いて来ます……」

「天出さんが過度にスキンシップをして来ます」

「天出さんがセクハラして来ます」

「天出さんが下品な事ばかり言います」


 そう、モーツァルトは女が好きなのだ。

 女子の身体に生まれ変わっても、全く変わらない。

 そして、モーツァルトは下品なのだ。

 食事中でも、平気で排泄物の話をする。

 セクハラという概念が無かった時代の人間で、かつ宮廷の堅苦しさを嫌っていたので、女の子に対する距離感がおかしいのだ。

 この時代で11年育ち、それなりに常識を身につけて生きて来たのに、箍が外れる時がある。

 着替え中の女子に背中から抱き着き

「◯◯ちゃん、今日も可愛いね!

 あ、今日初めて会ったんだったか!

 ごめんねー(スリスリ)。

 いい匂いだねえ〜。

 私なんてさっき出したウ◯コの臭いだからねえ。

 そう言えば、ウン◯しながら一曲作ったんだけど、聞いてくれない?」

 こんな事を言って来るのだ。


「集団生活において、極めて重大な問題あり」


 これが落選理由なのだが、審査員たちはこれをどう伝えるか悩んだという。

 技術面だけ見れば、他を圧倒するレベルなのに。

「残念な子だねえ」

「本当、あのセクハラ親父っぽい性格でなければねえ」

「あの子のスキルのせいで、他の子、自信無くしてますけど」

「そんな子を落として、他の子を合格にしたら、本人たちが困惑しますよ」

「仕方ない、あの子が受からなかったのは『セクハラのせい』と説明しましょう」

「ですね。

 全員被害に遭ってますから、それで納得するでしょう」


 かくして、千年に一人レベルの音楽の天才は、アイドルグループオーディションに落選したのであった。

おまけ:

前作がとても知名度低い人物と地域だったので、

今作は知名度抜群な主人公で日本を舞台にしてみました!

……度々ぶち当たる問題、ジャンル何が最適なんでしょう?

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― 新着の感想 ―
モーツァルトが生前の音楽を高尚と否定しているのが理解できない上、そもそも有名だからというだけで、リスペクトもなしに故人や偉人の名前を使うのはどうかと思う。 文中のモーツァルトの名前を他の作曲家や音楽家…
転生しても普通は…の辺りがすごく納得できる。0歳から前世の人格はっきりしてる設定だと乳幼児期が大変だよなあ、この作品のこの描写ぐらいで済むかなあと思うこと多いので。モーツァルトクラスにTVで音楽流れて…
モーツアルトのキャラと転生前の環境からくるギャップ等を考慮すると、文芸コメディあたりですかね~
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