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作者: 紫音

福耳を持つ男がいた。

ただの福耳ではない。それは、顔面程にでかい福耳だった。

その男、モデル並みに小さい顔面ならまだしも、例えば写真で後方に立っているにも関わらず、前方に立っている者よりも顔面が大きく写る程でかい顔面であった。その上で両端にその顔面程の耳が付いているので、鼻の短い象のような顔面の持ち主だった。

その上、その顔面の両端に付けられたダンボのような福耳は、自身の意のままに操ることが出来た。なので例えば、食事の時箸を掴んだり、例えば自撮りをする時、シャッターを自在に押せる等、邪魔なようで実は実用性は高く、また、会議などで寝ていたとしても横の人の目線は気にならない、というか顔が見えない。どうしても気になる場合、両耳で顔を覆う事も可能なので、非常に実用性が高い。

そんな、遠目からだと顔が3つあるような耳の持ち主は、ある悩みがあった。それは、顔のパーツである。目は細く、鼻はペチャッとした潰れたような鼻、口はおちょぼ口であった。要は、耳や顔面の大きさに比べて顔のパーツは小さかったのである。

その上、肩は撫で肩、全身パンクロッカーのようなひ弱な細身の身体をしており、また、その腕や脚は短く、手に関しては団子のように丸っこく美味しそうな手、足は23センチしかなく、よって、体育座りをした男を正面から見ると、殆ど顔面しか見えないのであった。

おまけにこの身体は、強風の時等は特にバランスを崩しやすく、道端で倒れたら1人で起き上がるのに一苦労したり、雨や雪の日は、傘をさすにも手を使えず耳で傘をささねばならず、そうすると、顔面の重量が傘の分重くなり、そこに雨や雪が降り注いでくるものだから、会社に通ったり家に帰るまで、一瞬たりとも気を抜けない生活を強いられているのだった。

出社するにも車に乗るとハンドルを握れず、顔面がフロントガラスを覆うので運転するにも出来ず、公共の交通機関を使うしか出来なかった。

その公共交通機関でも例えばバスに乗れば必ず2人分の席を占領してしまうし、それは電車でも同じであったので、当然通勤ラッシュ時間には乗れず、少し時間をずらして行くのだけれど、それでも1人で3人分の顔面を持っているので、何とか耳を畳んで座ったり立ったりしていた。

しかし、男はこの福耳を気に入っていた。

何故なら、誰からも有難いと触られたり拝まれたり、どこに行ってもちやほやされるから。もしくは、ちやほやとまではいかないけれどもとにかく目を引くからであった。男の性格とこの福耳はとても相性の良い関係であった。


そんなある日。

女の子が道端で泣いていたのを見かける。男がどうかしたのか聞くと、苛められたという。男は自分の右耳を女の子の頬に当てそっと撫でた。すると女の子はみるみる元気な笑顔に戻った。

お兄さんありがとう。

女の子は元気に挨拶して帰っていった。

良いことをした。

男がそう思っていると、今度は膝を擦りむいた男の子がいた。

また同じ右の耳でそっと男の子の膝を撫でた。

するとみるみる怪我が治って男の子はたちまち元気になった。

お兄さんありがとう。

男の子は元気に挨拶して帰っていった。

またまた良いことをした。


男はそうしてその日は色々な人を助けて歩いた。

やれ喧嘩している者があれば耳を触れと言い、やれ病気の人あれば行って耳でも触れと言い、とにかくその福耳を人に触らせて歩いた。

すると次の日から「福耳の男」として地元では有名な男となった。

身体の節々が痛む、風邪を拗らせた、花粉症だ、鼻血だ、色々な人達の不幸をその福耳を触らせるだけで皆元気になっていった。

数日もすると「福耳の男」の話題は全国に拡がった。

全国から持病を抱えた人達が連日福耳を触りにやって来た。男はどんどん触って元気になれとどんどん触らせた。

ふと気づくと、右耳の方が何だか小さくなっている。もしかして触らせると小さくなるのか?とも思ったが、男は連日訪れる客人たちを断れずどんどん触らせた。

男の福耳はどんどん小さくなっていった。

それまで顔の大きさ位あった福耳は、一般のそれと変わらない位小さくなっていた。訪れる人も、「ほんとに福耳か?」と疑問を持つようになり、そのうち訪れなくなった。

ちやほやされなくなった男は悲しみのあまり自分の耳を撫でて言った。

「何でもいいからちやほやされたい。耳がなくなってもいいから、皆が訪れてほしい」と。

すると男はたちまちその場から一瞬で消えて居なくなった。

男の立っていた場所には、小さい耳が落ちていただけだった。

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