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神使  作者: シュバル
9/22

巫女

~~ 十三年後 ~~


 十六歳になったリンは、四宮神社で巫女のアルバイトを始めた。

 一月一日、朝七時。ほぼ夜明けと同時に、神社の社務所が開けられた。初詣を終え、おみくじやお札を買い求める人で、社務所の前は長蛇の列ができていた。

 社務所内では七人の神職と、五人の巫女のアルバイトとが対応に追われていた。リンはぎこちない手つきで、お金を受け取り、お守りなどの授与品を渡していた。そして、その様子をローランはご神木の上から、おだやかな顔でながめていた。

 多くの人々でごった返している境内だったが、他の神々や神使たちも楽しそうに人々の姿を見ていた。主祭神である大国主は本殿に、どしっと腰を下ろすようにして、ずっと参拝者の願い事に耳を傾けていた。そして、ローランの幸せそうな姿を見た大国主も喜びにあふれていた。

 正午になり交代の者が来たので、リンは社務所の奥の部屋で着替えてから出てきた。

 「つかれた~」

 まっすぐにローランの元に向かったリンが、笑顔で言った。

 「ご苦労だったな。アルバイトはしばらく続くのか?」

 ローランはリンを優しい目で見ながら言った。

 「七日まで毎日よ!明日は十時に来るからね。」

 リンはローランに微笑みながら手を振り、人ごみに流されるようにして、家へと帰って行った。

 次の日、少し早めに四宮神社に来たリンは、ローランを探して、混みあっている境内をうろついていた。その様子に気が付いた稲荷社のキツネの神使が声をかけた。

 「ローランは早朝から、大国主様に用事を頼まれて出かけたぞ。」

 「ありがとうございます。」

 リンがにこやかに答えた。リンは天界と同じように、地球でも神や神使の姿が見え、普通に話が出来た。

 冬の日暮れは早い。夕方五時にアルバイトを終えたリンは、薄暗い中、境内を見まわしていた。

 「ローラン、まだ帰って来ないな・・。」

 リンは残念そうにつぶやき、家路についた。

 翌日も十時からアルバイトだったリンは、また早めに神社へ行き、人ごみの中、ローランを探して境内をウロウロしていた。

 「大国主様はお忙しいから、ローランの事を聞けないな・・。」

 リンはローランを探すことをあきらめて、社務所へ向かった。そして、その日の帰る時間になっても境内に、ローランの姿はなかった。リンが境内でキョロキョロしていると、大国主の神使である狛犬が話しかけてきた。

 「大国主様から伝えてほしいと頼まれた。」

 リンは、いつも険しい顔をして本殿の前にいる狛犬が、すぐそばに現れて話しかけてきたことに、とても驚いた。

 「ローランは、ある者を守護するために、大塩山に行っている。今夜には戻るだろう。」

 狛犬は険しい顔のまま、それだけを言うと、すぐに元の場所へ戻って行った。

 「ありがとうございました。」

 リンは狛犬の後姿に向かって、軽く頭を下げながら言った。

 次の日、リンが神社に着くと、ご神木の上にローランの姿があった。リンは、まだ人が多い境内を急いでローランの元へ向かった。

 「ローラン、お帰りなさい。」

 ローランは無言でうなずいた。そしてローランの元気がない顔を見たリンが心配そうにたずねた。

 「何かあったの?」

 「・・生まれた時から重い病気の娘がいる男が、危険な冬の大塩山に登り、病気治癒の願掛けで大塩神社へ行くから、守護してやってほしいと、大国主様に頼まれたのだ。しかし大塩山の神は『娘の病気を治すことはできない。寿命なのだ。あの者はそれを受け入れなければならない。』と、おっしゃっていた・・。」

 ローランは暗い声で言った。

 「そう・・・。」

 リンはそれ以上何も言えなくなり、無言の時が流れた。そしてアルバイトの時間になったリンは、ゆっくりと社務所の方へ向かった。



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