エミの決意
エミの地球への転生の日が決まり、別れをおしむ小さなパーティーが開かれていた。親友のアヤは、わざと皆に聞こえる様に大きな声で言った。
「ねえ、エミ。長い年月が過ぎたから、地球へ行きたいという気持ちが薄れてない?」
「それはないわ。二百年も待ち続けたのよ。地球への転生許可が出た時は飛び上がって喜んだの。」
エミは満面の笑みで答えた。
「龍の寿命は千年以上と言われているわ。ローランの寿命が尽きるまで、エミは輪廻転生を繰り返すことになるのよ。本当に大丈夫?」
友人のナナは心配そうに聞いた。
「私は大丈夫!でもローランは、また私を守ろうとすると思うの。だから、ローランの方が大変かもしれないわ・・。」
エミは照れくさそうに言った。
そして姉の子供である四歳のリンカが、エミに近づいて聞いた。
「エミちゃんは、ローランのことが好きなの?けっこんするの?」
にぎやかなパーティーが突然、静まり返った。
エミの姉は、リンカを抱き上げて優しい口調で言った。
「天人と龍は結婚できないのよ。」
その様子を真顔で見ていたエミが、ハッとした顔になり、口を開いた。
「以前、地球に転生した時は本当につらかったの。でも・・ローランがいない天界で生きていくことの方が、私にはたえられない・・。結ばれる相手ではないことは、よく分かっているわ。でもローランのそばにいたいの・・。お父様、お母様どうか、わがままを許してください。皆様にもご心配をおかけして申し訳ありません・・。」
エミは下を向き、泣き始めた。しかしすぐに涙をふき、決意を新たにするように言った。
「必ず、ローランと共に天界へと戻ってきます。」
幼いリンカは小さな手で拍手をはじめた。そして、その場にいた全員がそれに続いて拍手をした。
~~~ 二百年後の地球 ~~~
「この星は人口が減って、神社にもあまり人が来なくなったな・・。」
ローランはそうつぶやくと、退屈そうにあくびをして、心地よい秋風の中でまどろんでいた。
「こんにちは!」
七五三の着物で着飾った三歳の女の子が明るい声で、ローランに話しかけた。
ローランは目を見開き、驚きのあまり口が少し開いた状態で固まっていた。龍は人を容姿で判断するのではなく、その体の中に宿る魂の輝きで識別することができる。
「この地球に人間として生まれてくるのは本当に、ほんとーに大変だったのよ!」
険しい顔のローランとは対照的に、女の子は明るく愛らしい笑顔だった。
「エミ、どうして来たのだ・・。地球は引力が強すぎる。二度と天界に戻れなくなるかもしれないのだぞ・・。」
ようやく声が出るようになったローランは厳しい口調で言った。
「わかってるよ。」
女の子は満面の笑みでローランを見てこたえた。
「リン、早くこっちに来なさーい。」
女の子は母親の呼びかけに応じ、慣れない下駄を引きずりながら本殿の方へと歩き始めた。そして何度も振り向いては、ローランを見て、ほほえんだ。
「・・・・」
ローランは目を大きく見開いたまま、その女の子の姿を見つめていた。
ドォーン、ドォーン、ドォーン
太鼓の音が鳴り響き、七五三のご祈祷が始まった。
「天界の記憶を持ったまま生まれて来たのか・・。」
ローランはつぶやきながら、晴天の空へ向かって勢いよく上昇した。そして本殿の上空を旋回し始めた。