エミの帰還
「エミ!」
「エミ様!」
「久しぶり‼」
地球での修行を終えたエミが天界に戻ると、多くの者たちが出迎えた。
「エミ、地球はどうだった?」
いち早く駆けつけた親友のアヤが聞いた。
「想像以上に辛かったわ・・。はじめは、天界に戻りたくて毎日のように、『かえりたい』と考えていたし、重くて自由にならない体は牢獄に入れられているように感じて、『ここから出して』と何度も思った。もう二度と地球には行きたくないわ・・。」
明るく元気に話すエミを見て、周りにいた皆も笑顔でうなずいていた。
「地球では大変なことがいっぱいあったけど、ローランが助けてくれたの!私は天界での記憶が消されていたけど、地球での命が尽きる少し前に、奇跡的に天界の記憶が戻って、ローランと話ができたのよ!」
ローランの話になると皆がうつむき、その場の雰囲気が暗くなった。
「どうしたの?」
エミは周りの者たちを見まわして聞いた。
「エミ・・。」
祖父のジンが口を開いた。
「みんな知らなかったことなのだが、天界の龍が下界へと下りると、二度と天界には戻って来れないのだ。」
「え?ローランはそれを知っていて、地球へと向かったの?」
エミは祖父に近づいて、食い入るような目をして聞いた。
「そうだ。八大龍王様は引きとめたらしいが、ローランの意志は変わらなかったと、おっしゃっていた。」
祖父は言い終わると下を向いて、エミから視線をそらした。
「そんな・・。ローランは神使の仕事が終わったら、天界へ戻ると言っていたのに・・。私、八大龍王様の所へ行って来ます。」
エミは集まっていた者たちに軽く頭を下げ、八大龍王のもとへと走り始めた。
「八大龍王様、どうかローランを天界へと戻してください!」
エミは今にも泣きだしそうな顔で言った。エミが天界に戻ったことは、八大龍王の耳にも入っていた。そして、すぐにここへ来ることがわかっていた八大龍王は、王宮の外でエミを待っていた。
「ローランは自分の意志で地球へ行くことを決めた。一度、下界へ下りた龍は二度と天界には戻れないのだ。」
八大龍王は重い口調で言うと、首を横にふった。
「ローランは私のせいで・・。」
エミは泣きくずれ、長い間その場でうずくまって泣いていた。
「・・白山の神ならば何か知恵を貸してくれるかもしれない。ただし期待をしてはならない。この世界には誰にも変えられない事があるのだ。」
八大龍王は優しくなだめるように言った。
「ありがとうございます。」
エミは顔を上げ、涙をふきながら立ちあがった。
そして家へと帰る間も涙が止まらず、人目を気にすることもできずに、泣き続けていた。
「エミの様子は?」
祖父のジンが心配して、翌日、家を訪れた。
「昨日、八大龍王様の所へ行き、お願いしたそうですが、ローランを天界へ戻すことはできないそうです。でも、白山の神様に会いに行くと言っていました。」
エミの母親が心配そうにこたえた。
「おじいさま、こんにちは。」
部屋から出てきたエミの目が明るかったので、ジンは安心して言った。
「やあ、エミ。白山の神はエミが一人で行っても会えないだろう。十年ほど前に私はお会いしたことがあるから、一緒に行こう。」
「ありがとう。お願いします。」
エミは軽く頭を下げた。
「白山まではコンドルに乗っても、かなりの時間がかかる。覚悟して行かねばならない。そして神がおられる場所は雪や氷でおおわれている。防寒の準備も完璧にしておきなさい。明日の朝九時に出発しよう。」
言い終わると、祖父はエミに優しく、ほほえみかけた。
「はい。」
エミは力強くこたえて、ほほえんだ。