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神使  作者: シュバル
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ローランの決意

 八大龍王が住んでいる宮殿は山の中腹にあり、とても広く立派だった。しかし、とても威圧的で恐ろしい門番の龍がいるので、誰もが近寄りがたい場所だった。

 そしてローランは八大龍王の神使としての仕事以外で、宮殿に入る事は今回が初めてだった。

 「八大龍王様、地球へ行かせてください。」

 ローランは神妙な面持ちで話しかけた。

 「エミのことが気になるのか・・。あの子はもう立派な大人だ。お前が守ってやる必要はない。地球で経験を積んで、ここに帰ってくると立派な神官になるだろう。しかも龍は天人とは違い、下界へ行くと二度と天界には戻れなくなるのだぞ。」

 八大龍王はローランに優しく語りかけた。

「天人が地球へ行き、帰れなくなったり、天界に戻ってきてもショックが大きすぎて長い間、意識が戻らない者が多い事は知っています。エミは自分の事を、かえり見ず行動するので同じ状態になる可能性が高いです。」

 いつもは控えめに話をするローランだったが、この時は八大龍王から目をそらさず、しっかりとした口調で話した。

「確かにその可能性はあるが、お前が地球へ行ってエミの力になれるとは限らない。地球はここよりもかなり波動が低く、お前の力も制限される。天界の龍が地球で生きるという事は想像を絶するぐらい厳しいのだ。」

 ローランはうなずいた。自分の心は変わらないことを示すために。

 「・・お前を地球へは行かせたくない。しかし、お前が私の意にそむくほどの覚悟がある事は分かった。好きにするがいい。」

 八大龍王は軽くため息をついて話し続けた。

「地球に着くと、四宮神社の神使として働くのだ。四宮神社の神には私から話をつけておく。」

 「ありがとうございます。」

 ローランは深々と頭を下げ、下界へと開かれている門へ向かった。八大龍王は宮殿の外に出て、ローランの後ろ姿を見えなくなるまで見つめていた。



 ローランが地球で神使として働く四宮神社は、とても古い歴史があり森に囲まれていたので、いつも静寂な気が流れていた。その神社の境内には本殿以外に、3つの社があった。その一つである稲荷社の神は、天界から来る龍に会えることが、とても楽しみだった。

 ローランが四宮神社に到着すると、主祭神の大国主が暖かく出迎えた。

 「よろしくお願いします。」

 ローランは、ゆっくりと頭を下げながら言った。

 「お前に、この森は小さすぎるかもしれないが、好きなところで、ゆっくりしなさい。」

 大国主は、うなずいて優しい口調で言った。ローランはもう一度、軽く頭を下げてから、他の3社にいる神にも挨拶をした。稲荷社以外の神は、簡単に挨拶を返しただけだった。

 ローランが稲荷社の前に立つと、キツネ神はとても優しい目でローランを見つめながら言った。

 「私は天界に、あこがれている。地球で経験を積み、天界へ行くために頑張っておるのだ。また、天界の話を聞かせてほしい。そして地球のことで、わからない事があれば、いつでも聞くがよい。」

 「ありがとうございます。じつは地球で、ある女の子の守護をしたいと思っています。先日、水難事故で死にそうな女の子の体に、命を引き継ぐために天人が入りました。その女の子の居場所を知りたいのですが・・。」

 ローランは控えめな口調で話した。

 「私の神使達に頼んでおく。そのような珍しい事は、ほとんどないから、すぐに見つかるだろう。」

 稲荷社の神は自信たっぷりに答えた。人々の願いを叶えるために、稲荷社には神使であるキツネが数多くいた。

 ローランは稲荷社の神に頭を下げてから、ご神木である巨大なクスノキで、ゆっくりと休んだ。




 水難事故から一ヶ月が過ぎ、ハルカは何事もなかったように元気に日々を過ごしていた。しかし、ふと

 『かえりたい・・』

 という思いが、たびたび心をよぎる。

 「今までこんな事を考えたことはなかったのに・・。」

 ハルカは独り言を言いながら、部屋から見える青空をながめていた。




~~ 十二年後 ~~


 十九歳になったハルカは厄年のお祓いのため、家族と一緒に四宮神社に来ていた。

 「ハルカが生まれてから、いろいろあったけど、ここまで大きくなれた事は本当にありがたいと思うわ。」

 ハルカの母親がしみじみと言った。

 「私は一度死にかけたからか、他の人よりも恐怖心がないように感じるの。」

 ハルカがにこやかに言った。

 「あまり調子に乗らないように、神様にお願いしておこう。」

 父親は、あきれたような顔でハルカを見ながら言った。

 仲の良い家族の様子を、ローランはご神木の上からながめていた。そのローランの顔が、とても幸せそうだったので、他の神々も喜び、神社全体が明るく穏やかな気に包まれていた。



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