ローランの本心
お盆休みに入り、ヒトミは実家へ帰っていた。
「ヒトミのしゃべり方、変やな。」
兄は時々、関東弁になるヒトミをからかった。
「学校では、なるべく標準語で話しているから。」
「なんでや?」
「目立つねん。私の、ひと言ひと言に反応する人が多くて・・。」
「モテてるって事やな。彼氏は出来たんか?」
ヒトミの兄が笑いながら言った。
「うーん、この人だ!と思える人はいいひんわ。」
「ヒトミは、ずっと白馬の王子様が心にいるみたいな子やったもんな。」
母親が小さい頃のヒトミを思い出しながら言った。
「え・・、そうかな?」
ヒトミはすぐにローランのことが心に浮かんだ。
「さあ、今日は焼肉やで!」
ヒトミの父親がホットプレートを出しながら張り切って言った。
久しぶりに家族全員が集まり、ヒトミはにぎやかな家に懐かしさを感じていた。
次の日、ヒトミはアヤがいる大阪へ向かった。アヤが住んでいる大阪の下町は観光客も少なく、近くに商店街もあって便利な場所だった。
「大阪って、人と人との距離が近い感じがするわ。それに素直に思っていることを言って、何でも笑いに変えようとする人が多いの。はじめは戸惑う事もあったけど、私は大阪が好き。」
アヤはヒトミを商店街へ案内しながら嬉しそうに言った。
「京都と大阪は隣同士やけど地域性があって、全然違うねん。」
「ヒトミは地元に帰ると関西弁になるね。」
「家族の中にいると標準語では話しにくくて・・。そのうちアヤも、コテコテの大阪弁になるわ。」
二人とも同時に笑い出した。
「この商店街にある天満宮に、さすが大阪!という感じがする、楽しい神様がいるの。早くヒトミに会わせたい!」
アヤの足取りは軽く、ヒトミをせかすように歩き出した。二人が天満宮に近づく、神使の牛が座ったまま鳥居から顔だけを出して、アヤとヒトミのことをジッと見ていた。
「こんにちは」
アヤは元気な声で神使の牛に挨拶をした。
「その子も天界から来たんか?なんか二人ともキラキラしとんな。」
神使の牛は、ゆっくりと立ち上がりながら言うと、狭い境内を先導するように本殿へと歩き出した。そして神がいる社の前で、スッと姿を消した。
「こんにちは。神様、今日は友達を連れて来ました。」
「はじめまして」
アヤとヒトミはワクワクしながら天満宮の神に話しかけた。
「よう来たな。二人とも、まぶしいくらい輝いとんで。」
天満宮の神は社からパッと現れて、おおらかに話し続けた。
「最近は参拝者がめっちゃ少なくなったから、ヒマなんや。でもな、欲深い奴もおらんから、神社はいつも爽やかやねん。」
アヤとヒトミは同時に笑い出した。こんな気さくな神に出会ったのは初めてだった。
「ゆっくりさせてもらいます。」
そして二人は境内に置いてあるベンチに座った。それと同時に天満宮の神も社の中へ姿を消した。
「こんな素敵な神社が家の近くにあるなんて、いいなぁ。」
ヒトミは境内を見まわしながら言った。
「そうでしょ!ヒトミを、どうしてもここに連れて来たくて、大阪まで来てもらったのよ。」
ヒトミの楽しそうな顔を見たアヤは、満足そうだった。しかし今度は少し心配そうにたずねた。
「ヒトミ・・、今回の人生も独身で過ごすの?」
「あまり深くは考えてないけど・・。神官の修行で初めて地球に来た時は天界の記憶がなくて、地球人として普通に恋愛して、結婚もして子供も二人授かったから幸せだったわ。でも前回の人生は独身だったけど、ローランのそばにいる事ができたから、とても幸せだった。本当よ。今回の人生も独身だと思う。」
「あのね・・、ローランが『自分のせいでヒトミが、地球で幸せな人生を送れないのかもしれない』と言っていたの。」
アヤが真剣な口調で言ったので、ヒトミは驚いた。
「え?私はローランのそばにいれるだけで、とても幸せよ。地球の男の人と恋愛や結婚をするよりもずっと。ローランがそんな事を考えていたなんて・・。」
ヒトミは考え込むようにうつむいた。そしてアヤがゆっくりと話し始めた。
「ローランは自信がないのかも・・。自分のような龍ではなく、同じ人間と一緒になる方がヒトミは幸せかもしれないと思っているのよ。きっと天界に戻っても同じように考えると思うわ。」
ヒトミは何も言えなくなり、じっと足元を見ていた。
少しの沈黙の後、突然、天満宮の神が姿を現した。
「なんか雰囲気が悪いな・・。わしもローランに会うてみたくなったわ。ここに来るように伝えてもらえへんかな?」
天満宮の神がにこやかに言った。
「わかりました。必ず伝えておきます。」
ヒトミも笑顔でこたえた。
「では神様、これから美味しいと有名なお店でランチして来ます。」
「ええなぁ」
嬉しそうなアヤに天満宮の神が、うらやましそうにこたえた。




