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神使  作者: シュバル
17/22

天王山

 大学二回生になったヒトミは一人暮らしに慣れ、山岳サークルにも入って充実した日々を過ごしていた。

 親友のアヤは大学卒業と同時に結婚をして、彼の就職先である大阪へと引っ越していった。

 「アヤに会えないのは寂しいなぁ。」

 ヒトミはローランにつぶやくように言ってうつむいた。ヒトミとアヤはお互いの時間が合う時は、常に一緒にいる仲だった。

 「そうだ!今度サークルで天王山に登るの。天王山の神様に会えるのは楽しみだけど、結構きついみたい。」

 ヒトミは暗い雰囲気を打ち消すように、明るく言った。

 「天王山の神か・・。久しく会っていないから私も行こう。」

 ローランは優しい口調で言った。

 「ほんまに⁉ローランが一緒なら百人力や!」

 「山登りの手助けはしない。」

 とても喜んでいるヒトミにローランは、そっけなくこたえた。

 「えーー」

 ヒトミは残念そうに言うと、口をとがらせた。ローランは幼い頃のエミを思い出して、顔をほころばせた。



 「ヒトミ、今度の天王山は参加する?」

 同じ山岳サークルのリクが聞いた。

 「うん」

 「結構、厳しい山みたいだぞ。大丈夫か?」

 「大丈夫よ。すごく楽しみ。」

 大学一回生の時からヒトミのことが好きだったリクは、ヒトミを自分が入っていた山岳サークルに誘ったのだった。そして自分の気持ちをなかなか言い出せないリクは、天王山の頂上でヒトミに告白しようと考えていた。


 天王山へ登る日、早朝から空は澄み渡り、風も穏やかだった。山岳サークルの六人は一台の車に乗り込み、和気あいあいと天王山へ向かった。

 ローランは先に天王山の神に挨拶をして、ヒトミが登山口に着くのを待っていた。

 「さあ、みんな体調は大丈夫だな?頂上まで約三時間、下山は二時間ほどだ。頑張って行こう!」

 サークル長の掛け声で、みんなは一列になり、天王山の頂上を目指して歩き始めた。

 「疲れたぁ・・」

 約一時間半登ったところで休憩タイムに入った皆が、口々に言った。

 「あと半分。ここからが正念場だ!」

 先頭に立つサークル長は、皆の体調を気にしながら、励ますように言った。ヒトミは少し先の大きな木の上にいるローランに目をやりながら、荒くなっている呼吸を整えていた。

 その先もローランはヒトミの少し先で、頑張って登ってくるヒトミを見守り続けていた。

 「やったー!」

 頂上についた全員が喜びの言葉を口にしたが、その後は頂上の景色と登頂した満足感でいっぱいになり、しばらくの間、各自が思い思いに過ごしていた。

 ヒトミは天王山の神の姿を見つけ、少し仲間から離れた場所へ行って挨拶をした。そしてローランもヒトミのそばに寄った。

 「よく来てくれた。ローランから話は聞いているぞ。頑張っておるな。」

 天王山の神はヒトミに優しく話しかけた。

 「ありがとうございます」

 ヒトミは天王山の神に会えた喜びでいっぱいだった。そして神聖なその場が一層、清々しい気につつまれた。

 「ヒトミ・・」

 その直後、真剣な顔をしたリクがヒトミに話しかけた。天王山の神はすぐに姿を消し、状況を察したローランも、その場から飛び去った。

 ヒトミが驚いた顔で振り返ると、リクが近寄って言った。

 「気が付いていると思うけど・・、俺はヒトミのことが好きだ。付き合ってほしい。」

 「私は‥」

 ヒトミは困った顔でうつむいた。

 「好きな人がいる事は知ってる・・。でも気長に待つから返事を急がないでほしい。」

 リクは明るく言うと、すぐに向きを変えて歩き出した。

 ヒトミは過去に何度か男性から告白をされた事があった。その度に、『好きな人がいるから』と断ってきたのだった。

 「はぁ・・・」

 リクはため息をつきながら、腰を下ろして休んでいる友人の隣に座った。

 「ダメだったか・・」

 リクがヒトミに告白することを聞いていた友人は、残念そうにリクを見ながら言った。そして二人は無言で美しい景色をながめていた。



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