神の器
~~ 三ヶ月後 ~~
お正月の混雑が嘘のように、四宮神社は穏やかな気に包まれていた。
週末だけ巫女のアルバイトを続けていたリンは、境内のベンチにうつむいたまま長時間座っている男が気になっていた。そして本殿の掃除をしているリンに、主祭神の大国主が話しかけた。
「頼みがある。あのベンチに座っている男は先月、幼い子を病気で亡くして元気がない。心配だが我々の声は届かない。あの者に優しい言葉をかけてやってほしい。」
「わかりました。私でお役に立てるか分かりませんが・・。」
リンは心配そうに、その男を見ながら答えた。
アルバイトが終わり、リンは巫女の衣装のまま、すぐにその男の元へ向かった。
「あの・・、大丈夫ですか?」
その男はハッと顔を上げ、リンの事を見た。
「私でよければ話をしてもらえませんか?」
リンは心配そうに言いながら、その男の隣に座った。その瞬間、男は泣き始め、ゆっくりと話し始めた。
「・・先月、三歳の娘が亡くなりました。生まれた時から心臓が悪く、長くは生きられないと言われていたのです。でも僕は諦めず、あらゆる神仏にお願いに行きました。でも無理だった・・。」
「それは、おつらかったですね・・。」
リンの目からも涙がこぼれた。
「でも今日、氏神である四宮神社に来て気が付いたのです。いつも神様は優しく僕を包みこんでくれていたことに。今までは祈ることに必死で、わかりませんでした。それに今日まで、娘が亡くなった事を受け入れられなくて、泣くこともできなかったのです。これで少し前を向いて生きていけそうです・・」
男は涙をぬぐいながら顔を上げた。
「あ・・虹・・」
二人は空にかかる大きな虹を無言で見つめていた。その時、その男の携帯電話が鳴った。
「あ、妻からです。きっと帰りが遅いから心配して・・。では失礼します。ありがとうございました。」
男はサッと立ち上がり、リンに頭を下げて、電話をしながら歩きだした。リンもすぐに立ち上がり、男の後姿をずっと見送っていた。
「ありがとう。これで私も安心だ。」
大国主がリンのそばに現れて、優しくほほえみながら言った。
「いえ、私は何も・・。」
リンはうつむきながら答えた。そして大国主に頭を下げてから、全てを見ていたローランの元へと向かった。その間にリンは突然、白山の神が言っていたことを思い出し、ローランに伝えた。
「ねえ、ローラン。白山の神様が『地球では、全てが喜びであるという事を知っている状態で生きる必要がある』と言っていたの。でも、さっきの男の人の悲しみを感じた時、これも魂にとっては喜びだ・・と、私には思えない。こんなにつらい事が本当に喜びなのかな・・」
リンは赤い目で、鼻をすすりながら言った。
「白山の神がその様な事を・・。神の器になるまで、心を広げないといけないのだな。」
そう言うと、ローランは少しほほえんだ。
「まだまだ修行が必要なのね・・。」
リンはため息交じりの声で言って、うつむいた。




