ローランの守護
「ローラン、頼みがある。」
天界では、とても位の高い神官のジンが若い龍に話しかけた。
「なんだ?」
ローランは、そっけなく答えた。
「もうすぐ私の孫が生まれてくる。その子を見守ってやってほしい。」
「・・・」
ローランは面倒だから断ろうとした瞬間、ジンが話し始めた。
「先日、八大龍王様に私に初孫が生まれる話をすると、『ローランに守護を頼むと良い。お前の孫という事は大変な子に決まっておるからな。』と言われたのだ。」
「・・・」
ローランはますます困った顔になった。八大龍王に逆らうことなどできないのだ。
「わかった・・。引き受けよう。」
ローランはそう言うと、小さなため息をつき、上空へ舞い上がり空のかなたへ飛び去った。
「ねえ、ローランの体はどうして、お空と同じ色なの?」
神官ジンの孫で三歳になったエミは、様々なことに興味を持ち、ローランにも質問ばかりしていた。
「・・・」
無口なローランは、エミをチラッと見るだけで答えなかった。
「ローランは飛べるからいいなぁ。雲の上は、ふかふかで気持ちがいいの?私も連れて行って!」
無邪気なエミは、キラキラとした目で話しかけた。
「それは断る。」
ローランは即答し、雲の中へと消えていった。
「またローランがどこかへ行っちゃった。」
エミは、つまらなさそうに口をとがらせて上空をながめていた。
「エミ」
エミの母親が優しく呼びかけた。
「ローランと仲良くしていることを他の人には言わないでね。」
「どうして?」
エミは驚いた。
「ローランは八大龍王様のお使いの仕事があるの。エミと同じように、お友達みんながローランに話しかけると、困ってしまうわ。」
母親は明るく笑いながら言った。
「うん・・わかった。」
エミは空を見上げながら言った。
「ねえエミ、エミと一緒にいる時、よくあの青い龍を見かけるわ。」
親友のアヤは、二人から少しはなれた木の上で寝ているローランを見て不思議そうに話しかけた。
「小さい時に、母から口止めされたのだけど・・。あの龍はローランというの。私の祖父が、私の生まれる時に守護をお願いしたそうなの。その時、ローランはとても嫌そうな顔をしていたらしいわ。」
エミは苦笑いしながら答えた。
「エミの守護だなんて・・。私だったら絶対に断るわ。」
アヤは大げさに驚いた顔をして言った。
「もう!アヤったら、ひどいわ。」
「だってエミは後先考えずに行動するし、他人のために自分を犠牲にしてまで頑張ってしまうでしょ?今はお互い十五歳になって落ち着いたと思うけど、小さい時のエミは私からみても、危なっかしくて心配だったのよ。」
アヤは真剣なまなざしで、エミを見つめた。
「ご迷惑をおかけしました。」
エミは笑いながら言った。
「ローランにも、その言葉を伝えてね。」
アヤも笑いだした。
「龍は無口らしいけど、ローランは本当にクールで、私がいくら話しかけても、そっけない言葉しか返ってこないの。」
エミは残念そうに言った。
「でも、アヤの忠告通り、今の話をローランに伝えてくるね!」
言い終わるとエミは、とびきりの笑顔で、ローランの元へと走り出した。
そして話を終え、エミがこちらに来る後姿を見つめるローランの、とても優しいまなざしに、アヤは気が付いた。
『龍とも、こんな関係になれるのね・・。天界には龍がいっぱいいるけど、今まで無関心だったわ。私も今度、龍に話しかけてみようかな。』
アヤは、その光景をほほえましく、ながめながら考えていた。
「聞いて!ローラン!」
二十歳になったエミはローランを見つけると、勢いよくかけ寄った。
「神官の試験に合格したの!」
エミは合格通知を手に、とても興奮していた。そして喜びのダンスをおどり始めた。
そんなエミを、ローランは口元をゆるめて見ていた。
「ローランの笑った顔、初めて見たわ・・。」
エミは急にダンスをやめ、目を丸くして言った。すぐにローランはいつも通りのクールな顔に戻り、エミのもとから飛び去った。
「ローランって、恥ずかしがり屋なのね。はじめて知ったわ・・。」
エミはローランの後姿を見ながらつぶやいた。