お酒の力
時間が止まったかのように数秒が経ち、ゆっくりと扉が閉まる。
奴隷時代、裸を誰かに見られるなんて何回もあったから驚いたり恥じらったりはしなかった。
(そう、驚いたり恥じらったりなんか...する!)
(オトナの人達に見られるのは慣れてるものの、同年代の子でしかも男の子なんて経験ある訳ない!ハッキリ言って恥ずかしいに決まってる!)
ボクは急いで着替え終えて、扉を開ける。
扉の前には頭を下げて待機してるあの人の姿があった。
(協会の時の人...だよね?)
ボクはゆっくりと下から上へと視線を送る。まるでお手本のように頭を下げる姿は凄く綺麗とも感じた。
「あの」
ボクが声をかけようとするとその人は
「ごめんなさい」
と被せてきた。
ボクは動揺しつつも「大丈夫です」と答える。
「ありがとうございます」
その人はこちらに少し顔を向けて答えた後、もう一度お辞儀をした。
(協会の時に会ったような人とは思えない)
あの時とは状況が違うものの、誠意を込めたお辞儀、そしてしっかりと謝罪を感じる言葉の弱さ...そこにはボクと同い年の「少年」が立っているようだった。
ボクは念の為、質問をする
「あの」
「はい」
「もしかしてこの部屋に...?」
「その通りです」
(同年代の男の子で、しかも裸を見せてしまった子が同じ部屋!?)
ボクが恥ずかしさと動揺に襲われていると、その人は口を開いた。
「062番です。宜しくお願いしましゅ」
(宜しくお願いしましゅ...?)
62番さんの顔を見る。相手はそれと同時に顔を逸らした。
噛んだと脳が理解するまでに少し時間がかかった。
「フッ」
(...駄目...笑っちゃいけない...)
ボクは協会の時と今の時のギャップを比べてしまい、笑いが出そうになった。
(深呼吸....スー....ハー...とりあえず返さなきゃ)
「061番です...宜しくお願いします」
ボクは声が震えながらも、ちゃんと答えることが出来た。
挨拶をしたあとすぐに後ろへ振り返り、ニマニマした顔を戻しながら部屋に入る。
(あの人と...同じ部屋...)
62番さんをチラチラと見ながら考える。
(あの人は何を考えてるんだろう?)
そんな事を思っていると、あの人は着替えを持って外に出ていった。
それから十五分ほど経った頃、扉がまた開いた。ボクはそちらに顔を向ける。
「やっほ!」
そこには25番さんが立っていた。
「25番さん...!」
(ん...?)
25番さんが部屋に入ると同時に、部屋の中がお酒の匂いで充満した。
「25番さん...もしかしてお酒飲んでるんですか?」
ボクは質問をする
「そうだよぉ〜ここにはお酒まで完備してあるんだ〜!」
(そんなものまで置いてあるんだ...)
ボクがそう考えていると、25番さんがふらつきながら近づいてきた。
「聞いてよぉ!26番と部屋で話してたらお風呂に逃げられたんだぁ!」
「26番さんと同じ部屋なんですか?」
「そうだよ〜ん!部隊が同じ人間と相部屋の方が、連携もしやすいだろうってことらしい!」
(じゃあボクは62番さんと同じ部隊なんだ)
歳が近い子と同じ部隊になれて嬉しいボクは、心の中で少しワクワクしていた。
「ドールちゃん!」
25番さんが座っていたボクを押し倒した。
「なな、なななんれしょう!?」
女の人に押し倒された経験のないボクは、突然の出来事に驚いて呂律が変になった。
25番さんは真剣な眼差しで顔を近づけて来る。
ボクは何故か目を閉じてしまう。
「前に呼んだみたいにお姉ちゃんって呼んで!」
「えぇ!?」
ボクは突然の申し出に驚きを隠せなかった。
「なんでですか!?」
「生まれた時が末っ子で...お姉ちゃんって呼ばれるのが夢だったんだよぉ!」
ボクは動揺しつつも息を整える。
「は〜や〜く〜!」
言おうと口を開いたその時、ドアの開く音がした。ボクはそちらに顔を向ける。
開いたドアの先には、26番さんと62番さんが立っていた。