運命
物心がついた頃には、ボクは奴隷として生かされていた。
オトナ達は「このガキは周りと比べて顔が整ってるから、処分せずに貴族へ売ろう」と話していた。
ボクは[ドール]と名付けられ、とある日は貴族の相手、とある日は彼らの相手をさせられた。
どこに向かうかも分からない馬車の檻に入れられながら、ボクは今日も穢される...はずだった。
──────────────────────
突然馬車が止まった。
外がなんだか騒がしい、檻の上から風呂敷をかけられてるから、何が起きてるのか分からない。
外から聞こえる話し声に耳を傾ける。
「次に向かう予定の協会だが、連絡が一向に付かない」
外にいる男が話した。
「次って確か、村の外れにある騎士団の協会だよな?」
男の1人が少し動揺した様子で質問をした。
「その通りだ。鳩を通して手紙を送ったんだが、酷く怖がった様子で鳩が帰ってきたんだ」
何か変なコトが起きたみたいだけど、どうせボクには関係ない事。と、思いつつも話を聞き取る。
「もしかして...【例の奴ら】の仕業なんじゃないか?」
「ふざけた事を抜かすな。あれはどっかの馬鹿が勘違いして作り出した妄想だと片付いただろう」
例のヤツら?ボクはより話し声が聞こえるよう、檻の端に移動する。
「妄想だとしても殺されたヤツが多すぎる!その姿こそ見た奴はいないが、【奴ら】は本当に実在するはずだ!」
「いい加減にしろ!もし本当に【奴ら】が居たとして、魔法を使わずに騎士や貴族を襲いまわってるとでも言いたいのか!?」
魔法を使わずに...騎士を倒す?
ボクはその言葉を聞いた時、前に聞いた物語を思い出した。
半年前に牢屋の中で、他の子から聞いた「物語」のような話。
その人達は顔を隠すくらい深くフードを被っていて、靴が僅かに見えるほど長いマントをしている
鍛えた熟練の騎士が十人で襲っても、[たった二人で]次々と制圧する程の強さ
そして何よりも...【魔法を使わずに、剣と生身でその人達は騎士団を相手にしていた】と聞いた。
他の子達が考えたただの妄想なのかもしれない...。でもボクは、ボク達は、その妄想のような話に出てくる人達を正義のヒーローだと思った。
ボクが話を思い出しながら、想いにふけていると、外から困惑と怒号が混ざった様な大きな声が聞こえた。
自然と耳がそちらに向く
「て、てめぇら一体どこから...いやそんな事より何者だ!?」
男性が怒鳴った後、鞘から剣を抜くような音が聞こえた。
地面を蹴る音は聞こえなかったのに、僅かに人が走ったような気配がした。
その直後、剣と剣が交じり合う音が鳴り響く。
ただそれは、一方的な力の見せつけとも言えた。
[そこに居る誰か]が振ったであろう剣から、凄まじい程の風圧が走った。風圧によってボクの檻に掛けられた風呂敷が取れる。
ボクは目を疑った。顔を隠すくらい深く被られたフード、フードから伸びた真っ黒なマントは体を覆い、靴しか見えないほど伸びていた。
周囲には鎧を着た騎士や傭兵のような人達が四人、五人と倒れていた。
その状況に圧巻されているボクを引き戻したのは、先程の剣の風圧だった。
その剣は一撃一撃が重く、そして鋭くあった。
やがて相手の剣が折れて、[何者か]の剣は相手を斬り裂いた。
後ろで見ていたもう一人の[何者か]は口を開く
「冥土の土産として教えてあげよう。【ニンファエア】、それが私達の名だ。」