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愛されない妃ですので。  作者: ごろごろみかん。


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恋敵 【リュシアン】


なぜシェリンソンの養子に声をかけたのか、自分でもよくわからない。


ただ、夜会の最中、居心地が悪そうに──あるいは、自分の居場所などないと確信しているようなそんな振る舞いが目に留まった。

しかし、自分が直接声などかけたらますます彼は萎縮するだろうし、何より自分がしたい話は、公の場ではできない。

オーブリー経由でアーク・シェリンソンを呼び出し、人払いを行ったテラスで彼を待った。

時間を置かず、アークが現れる。

彼は無表情を装っていたが、戸惑いが隠せていなかった。

純人間。リュシアンは、今まで純人間と関わったことは無かった。当然だ。

エルフの王が、たかが純人間、エルフの血が一滴も入っていない人間ごときと会うはずがない。

それは、相手が国王と名のつく人物であっても変わらない。エルフという種族にとって、地位は関係なく、彼らがもっとも重要視するのは【エルフの血の濃さ】だ。

それによって、明確な序列が生まれる。

もし、リュシアンが純人間と顔を合わせたなどと社交界に知られれば多くの人間が不満を抱くだろう。批判の矛先は、決してエルフの王ではない。向かう先は、リュシアンと面会しているアークである。彼らにとって、もっとも大切なのは、エルフの王であり、それ以外は瑣末事だ。


「やあ、呼び立ててすまないね」


リュシアンの言葉にも、アークはあまり反応を示さなかった。

緊張している、というよりは、警戒している。

リュシアンは、用意させたワインボトルに視線を向けた。話し合いを円滑にするために、と用意させたものだかこの調子では彼は口にしないだろう。

アーク・シェリンソンの生い立ちについては既に報告を受けている。

前回は、シェリンソンの家そのものに興味がなく、そこの養子など、認識はしていても深く調べることはなかった。

生い立ち、そして彼が純人間だと知ったのはミレーゼをシェリンソンの娘にしようと決めた時だった。念の為、シェリンソンの家に調査を入れたのだ。


シェリンソンの家は、【フェリス】の家族にもっとも相応しいとリュシアンは考えた。

何より、あの夫婦はエルフらしくない(・・・・・・・・)

由緒正しい格式高い家ではあるが、純人間の男を次期当主に指名するくらいである。エルフという種族性を考えれば、あまりにも異質。

異常、と言い換えても良かった。

夫婦仲は良く、ミレーゼが憧れる【フェリス】の親にはぴったりだと考えた。

それは、人形遊びとさほど変わらなかった。

誰を、どこに配置するか。

常にリュシアンはそんなふうにしか他人を見ていない。


唯一の懸念点は、アークの心中事件だが、そんなことはリュシアンにとっては些細なことだった。アークの心中に巻き込まれる前に、フェリスを妻にすると決めていたし、例えアークが何をしようともどうとでも出来ると踏んでいた。エルフの王であり、祝福を使用するリュシアンなら不可能なことでは無い。そもそも、彼に不可能など存在しない。

そう、思っていた。


こうしてふたりで話すのは初めてだ。

リュシアンは、ふたつ用意させたうち、ひとつのグラスにワインを注いだ。葡萄の芳香が空気に解けた。


「言葉遊びを好むとも思えないから、単刀直入に言うけど」


アークは答えない。

リュシアンは、グラスにくちびるをつけると、一気にワインを煽る。エルフは酒に強く、酔いにくい体質だ。エルフの血が濃ければ濃いほど、酒に溺れることは無い。エルフの王であるリュシアンにとって、酒は水と変わらない。


「きみに、フェリスはやれない。……ごめんね」


それで、呼び立てた理由がフェリスにある、と知ったのだろう。アークの瞳に動揺が走った。


「彼女は、僕が貰う。僕が縛って、僕に縛り付ける。……僕には、彼女しかいないんだ」


「……何の話を」


「隠さなくていい。きみも彼女を必要としているんでしょう?見てればわかる。恐らく、僕が手を放せばそれで事足りることなんだ。きみと彼女、ふたりで過ごしてハッピーエンド。……それに横槍を入れたのは僕だ」


リュシアンは、自身の狡さを理解している。

卑怯だと、自覚していた。

フェリスとアークは、似合いのふたりだ。

深く傷ついたフェリスとアークは、痛みをよく知っていることだろう。

だからこそ、互いに互いを助け合う、そんな関係性を生み出せるはずだ。

リュシアンが何もしなければ、彼らはきっと結ばれていたことだろう。

それが、ふたりにとってもっとも良い事だと彼は理解していた。

フェリスは、過去に囚われることなく、彼女の望んだように幸福な少女(フェリス)になれるのだろう。

アークは、唯一見つけた希望に光を見るだろう。

リュシアンさえいなければ、それは簡単に成されたはずだ。

それでも。そうだと、わかっていても。知っていても。


(僕は……手放せない)


これを、ひとは【愛】と呼ぶのだろうか。

それとも、お気に入りの玩具への執着と見るのだろうか。

どちらにせよ、ひとつだけはっきりと分かっていることがある。

それは、リュシアンには、フェリス──ミレーゼしか、いない、ということ。

例え彼女に蛇蝎のごとく嫌われていても、心底憎まれていても、そこに殺意しかなかったのだとしても。それでも、そばにいてほしい。

そばにいるのは、フェリスで、ミレーゼであってほしい。


「きみには、僕を批判する権利がある。……きみが望むなら、腕の一本や二本、飛ばしてくれてもいい」


リュシアンの言葉に、アークはあからさまに顔を歪ませた。

肢体を飛ばされたところで、リュシアンは死なない。

首を切られてもなお、エルフの王は死ぬことは無いだろう。

エルフの王を殺す方法は、ふたつ。

それを知るものは、エルフの王のみ。代々ティファーニの王にのみ語り継がれた、エルフの王の殺し方。


ひとつめは、寿命。

そして、もうひとつは──。


愛する人間に心臓を穿たれること。


だから、リュシアンはフェリス以外には殺せないし、殺されない。

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