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愛されない妃ですので。  作者: ごろごろみかん。


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38/50

決めたこと

「…………お義兄様は」


私は、ゆっくり言葉を紡いだ。

アークは、私の言葉の続きを聞くことなく首を横に振る。


「僕には、選択肢はない」


「…………」


「分かってる。分かっているんだ。……それでも」


アークは、真っ直ぐ前を向いた。

私は、言葉を呑み込んだ。


「今はまだ、考えたくない」


──お義兄様はきっと、この国で生きていくのは向いていない。


そして、それは私も。

あぶれたもの同士、仲良くこの国を去れれば良かった。


『私と、逃げる?』


尋ねたら、彼はどう答えるのだろう。

きっと驚いて、そして、苦痛を覚えたような顔をするのだ。

だって彼は、シェリンソンの家を捨てられない。

恩義を感じているから。

お母様に、お父様に。

あの、見世物小屋から連れ出された彼は、少なからずシェリンソンの家に恩を感じているのだ。

だから、彼は言わない。

エルフを心底憎んでいても、ここから逃げ出そうとしない、理由。


私も、言えなかった。

だって、私もまた、逃げられない理由がある。


(リュシアン殿下……)


私が、いなければあのひとは。

また、罪を犯す。

罪を、罪とも思わずに、手を汚す。

そして、きっとそれを咎めるひとはいない。

多くのひとがまた、犠牲になる。

そして、それを幸と思うのだろう。

歪んでいる。それが、ティファーニ。

そうすることが、当然の在り方。

私が異常に思う方が異常なのだろう。

分かっている。それでも、私はそれを無関係と、好きにすればいいと彼の手を放すことは出来なかった。

もう、私のせいで、知らないところでひとが死ぬのは嫌だった。


アークも、私も、きっと囚われている。


アークは、シェリンソンへの恩。

私は、リュシアン殿下への、情。


「メロディ様は、結婚相手には向いていないと思う」


馬車に乗り込んで、アークに言う。

彼は、ふん、と皮肉げに鼻を鳴らすだけだった。


「ねえ。でも、もしかしたら……ほかに、いいひとがいるかもしれない」


「それを、お前が探してくれるの?」


明らかに、彼が嫌がっていることは理解している。

それでも、私は、少しでもいい未来が訪れるように。引き寄せられるように、行動したいと、そう思っている。例えそれが、自分勝手に過ぎない、自己中心的な思いであっても。


「まだ出会っていないだけで、お義兄様が好きになる方がいるかもしれないじゃない」


「は。そんなやつも、僕が純人間だと知れば手のひらを返す」


「そんなこと……」


「そうだろ?それを……お前がいちばん、知っているはずだ」


言いきられて、私は何も言えなくなってしまった。





三日後、王城から親書が届いた。

送り主は、リュシアン殿下。

予想していたことだ。

お父様の書斎に呼び出され、リュシアン殿下の手紙を差し出される。宛名は、私の名前になっていた。傍に控える侍従にペーパーナイフを手渡されて、封を切る。

中には、一枚の便箋。

そこに書かれていることも、予想していた通りだった。

私への、婚約の打診。

私は、それをお父様に差し出した。

お父様は手紙をじっと見つめて、短い文章をじゅうぶん過ぎるほどに読み返してから、顔を上げた。


「お前は、どうしたい」


「…………私は」


リュシアン殿下への、感情はもう、一言では言い表せられない。

憎いし、恨んでいるし、嫌悪しているし、腹を割って話してからは、どうしようもないひとだと思っている。

まるで、倫理観を教えられなかった幼子のよう。無垢に無邪気に、同じくらい残酷だ。

虫の足をいたずらに引きちぎり、蝶の羽を捥ぐ子供と、なんら変わらない。

この気持ちがなにか、私には分からなかった。

それでも、答えは決まっている。


「お受けします」


以前は、物心ついた時には、私と彼の婚約は決まっていた。

私の意思は、そこにはなかった。

彼に愛されようと、彼に受け入れてもらおうと、必死だった。ただ、それだけ。

私の、物事の基準は彼だった。

彼に嫌われないだろうか。彼にどう思われるだろうか。そんなことを常に考えていたような気がするし、どうあっても彼に愛されないと気がついてからは、静かに生きていこうと思った。

同じくらい、きっと、死にたいとも思っていた。


「お父様。……殿下に、ぜひお会いしたいと……そう、伝えてください」


もう、そんなのはうんざりだ。

ひとの顔色を伺って、ジメジメと生きていくのは、もう、二度と。

私が時を戻るために犠牲になった命があった。

リュシアン殿下は、とんでもないことをした。そを彼は、自覚していない。

だから、私は彼に償わせたいと思った。

それはやはり、私の傲慢で、自己満足なのだろう。それでも、私が彼にそれを教えることが、彼らへの……この国の民への──いや、私の贖罪になるだろうと思っていた。

私の強い声に、お父様は少し驚いたようだった。戸惑い気味に、それでも頷いて答えた。


「分かった。……それにしても、いつ殿下とお会いしたんだい?」


リュシアン殿下は、来月、正式に即位することが決められている。

つまり私は、王の婚約者となるわけだ。


私は、お父様の言葉に曖昧に笑った。


「社交デビューの夜です。……運命のようですわね」


そう、運命のよう。

周りのひとをたくさん巻き込んで、振り回して、私も、彼も、同じくらいどうしようもない。

迷惑で、自己中心的で、破滅的だ。




【二章 完】

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