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愛されない妃ですので。  作者: ごろごろみかん。


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22/50

心中相手の婚約者

サロンに向かうと、私たちを待っていたアークが顔を上げた。

手元には、経済を記す教本があった。

膝を組みながら静かに読んでいたようだ。

アークは、私たちを見ると瞳を細めて笑った。


「どうでしたか?ドレスの試着は」


お母様が、アークの対面に座る。

侍女のカレンが、すぐにティーセットを乗せたワゴンを押して入室してくる。

カレンは私の侍女だ。

私がフェリスとして目覚めてすぐに出会った人でもある。薄茶色の髪を引っ詰め、後れ毛を首に垂らしており、口元には印象的なホクロがある。

お母様が、アークの問いに答えた。


「とても素敵だったわ。あなたも見たら驚くわよ」


「そうですか。当日が楽しみです」


アークの耳には、雫の耳飾りが揺れている。

それは数年前に私が彼に誕生日プレゼントとして贈ったものだった。

若草色の耳飾りは、彼の雰囲気にもとてもよく合っている。


(私が……彼の耳飾りをつけてあげたのよね)


彼の耳に、消毒した針を刺したことは、なかなか忘れられない。私も耳に穴を開ける時はとても痛かったのだけど、アークは呻き声ひとつ漏らさなかった。

しかし、眉を寄せてはいたので痛いは痛いようだったが。


耳飾りは基本、耳に穴を開けなければ着用できない。そのため、耳飾りを着けるとなると、耳に穴を開ける必要があるのだ。

そして、アークは耳に穴を開けていなかった。他の国は知らないが、ティファーニでは貴族平民問わず、幼い頃に耳に穴を開ける。

珍しいと思い、当時彼に尋ねると、アークは吐き捨てるように言った。


『主人の楽しみに取っておいたんだろ』


と。その時は意味がよく分からなかったが、次第に理解するようになった。アークは奴隷として売られていた。


つまり、売られた先で、主人の愉しみ(・・・)のひとつとして、あえて耳を貫通させていなかったのだ。なんて悪趣味なのだろう。


私がお母様の隣に座ろうとした時、アークの視線がふと私に向かう。

彼は夜の帳が落ち切る前の黄昏のような瞳で、静かに私を見た。


「……髪」


「え?」


アークがふと言ったので私は目を丸くした。

髪?と自身の髪に触れようとしたところでアークが席を立つ。


「髪が乱れてる。メイドは何も言わなかったのか?」


アークの言葉に、お母様も私を見た。


「あら、ほんとう。よく気がついたわね、アーク」


アークは何も言わずそのまま手に持った本をソファに置き、私の方に歩いてきた。長い足がすらりと伸びるアークは、私の予想通り美青年に育った。どことなく色気を感じるのは、彼の暗い過去がそうさせているのだろうか。


物憂げな色気を感じさせる青年だ。

夜の色を纏い、黄昏の瞳を持ち、静の雰囲気を持つ彼はどことなくミステリアスで、秘密主義者のように見えた。


アークは、私の前に立つと、馬鹿にしたような、あるいは苦笑するような顔で私を見た。


「ここ」


そのまま彼の指が私の前髪に触れる。

自分では分からなかったが、前髪が跳ねていたようだった。アークがそっと指で乱れた前髪を直してくれる。


「ありがとう、お義兄様」


教えてくれれば自分で直したのに。

もしくは手鏡を用意してくれれば。

そんなことを思いながら礼を言うと、またふっと笑われた。

困った犬猫でも見るような目だ。

その瞳を見ると、彼は決して冷たい人なのではないとその度に私は知る。


お母様がぽん、と手を打った。

子気味いい音がサロンに響く。


「そうだわ。アーク、あなたに話があります」


「なんですか?」


アークは、お母様に向き直って尋ねた。


「前から何度か話してると思うけど……アーク。あなたの婚約について。ちょうどいいから、フェリスも一緒に聞いてちょうだいね」


現在、アークは十七歳。


過去、私は十七で王妃となり、アークは十九の時シェリンソンの養子になった。

今の年齢から言えば、二年後の話だ。


そして、彼はシェリンソンの養子になったと同じくらいの時期に婚約者も決められたはずだ。


過去を思えば婚約の話は早いくらいだが、そもそもの話、アークの養子入りが私の知る時系列よりずっと早い。早すぎる。


私の知る過去の時系列の動きと現在では、既に乖離していると見ていいだろう。


いずれアークも婚約する。

私の過去の記憶は既にあてにならないが、それでもそろそろだろうな、とは思っていた。


問題は、相手が誰か。


お母様が、瞳を細めてアークを見る。

対してアークは、特に驚いた素振りもない。

お母様のいうとおり、もっと前から話を聞いていたようだ。


「お相手は、エバンス伯爵家のご令嬢よ。メロディ・エバンスお嬢様。あなたも社交界で何度かお見かけしたのではなくて?」


覚えのある名前に、背筋が冷える。

時系列が変わろうとも、やはり未来はそう大きくは変わらない、ということなのだろうか。


メロディ・エバンス伯爵令嬢。

それは、アークの心中相手でもあり、彼の婚約者だった娘の名前。


(このままでは、お父様とお母様は事故死し、アークはメロディと心中する……?)

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