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愛されない妃ですので。  作者: ごろごろみかん。


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18/50

最初からなかったかのように

「え……」


カナンの言葉に私は狼狽えた。

ミレーゼはいずれリュシアン殿下と婚約し、結婚する。戸惑う私に、カナンがさらに言葉を続けた。


「でも、ティアラ様は陛下の二つ上。年齢が釣り合わないのではないかしら」


「──」


「カナン?」


咎めるようにカナン・デイジーの母が注意する。王家の結婚についてみだりに話すな、という指摘だろう。

デイジー家は伯爵家だ。

彼女をあまり社交界で見た覚えはないが、カナンも適齢期に差し掛かった頃婚約者と結婚していたはず。あまり社交界に顔を出さないので、ミレーゼであった時に彼女との交流はなかった。

薄い記憶を思い出していると、カナンが母の注意を受けて口を噤んだ。デイジー夫人が私を見て苦笑する。


「全ては陛下の思し召しによりますから」


「そうですわね。殿下には良き人と巡り合われてほしいですわ。殿下の……陛下の幸福は、私たち臣下の幸福ですから」


シェリンソン夫人も同様に笑みを浮かべて返す。

エルフが建国したティファーニは、平民も貴族も関係なく王家至上主義だ。エルフの血が流れているものなら誰もが当然のようにエルフの王を崇拝する。

ティファーニを守る一族。エルフの血がもっとも濃く、特徴的な尖った耳を持つ王家。


私は夫人の会話を聞きながら薄々感じていた疑問が確信に近づくのを感じた。


ウブルクのテーブルには、姉のティアラと母しかいない。この時、ミレーゼは五歳。

ティーパーティーに参加して然るべき年齢だ。

それなのに、ミレーゼは不在。ウブルクの家に限って欠席とは考えにくい。


それに、カナンの言葉。

リュシアン殿下の婚約者としてあげられた名前は【ティアラ・ウブルク】。

カナンの言う通り、お姉様はリュシアン殿下の二つ年上だったため、婚約者候補から外れた。

それより、彼の三つ下の私の方が適任である、という判断に至ったのだ。


その二点から考えられることは──


この世界には、ミレーゼ・ウブルクが存在していない、という可能性。


フェリス・シェリンソンという架空の人物が生まれ、同時に本来いたはずのミレーゼの存在が消えた。

それは、なぜ……?


ティーパーティーはトラブルなく終了した。

中央のテーブルではお母様とお姉様が、リュシアン殿下と談笑している様子が伺えた。

何を話しているか分からないが、雰囲気は悪くなさそうだ。


なぜだか分からないけれど、時が巻き戻った、ようだ。

そして、私はもうミレーゼではない。

私は、シェリンソン伯爵家の娘、フェリスとなっている。

リュシアン殿下の婚約者は、順当にいけばウブルク公爵家のティアラ姉様か、レスィア侯爵家の娘ミチュア様となるだろう。

どちらに転んでも積極的に関わりたい人達ではない。


なぜ、時が巻き戻って、さらには私がシェリンソンの娘になったかは分からない。

だけど、私はひとつの希望を見出していた。


再び時が巻き戻った今、リュシアン殿下の婚約者という立場でもなければ、ウブルクの娘でもない。

私は、自由だ。

ウブルクの家に縛られることも、与えられた立場に踊らされることも無い。


それなら。

それなら、今度こそ──。


今度こそ、私は自分のために人生を生きてもいいのではないだろうか。

ウブルクの家のためでもなく、ティファーニのためでもなく。王家のためでも、リュシアン陛下のためでもない。

ただ、自分のため。

私が、私らしく生きるために。


生きても、いいんじゃないか──。


そう、思った。

帰りの馬車、静かに考え込む私を見て、夫人が私の顔を覗き込んだ。


「フェリス、大丈夫?気分は悪くない?」


優しい母だ。


私は、これから彼女を母だと思うことにした。

もともとフェリスという少女はいなかった。


そして今、フェリスは私だ。

それなら、今後、私が、私こそがフェリスだと思うことにした。

フェリスとして、幸福を掴む少女の名を持つものとして、私は私らしく生きてみせる。


今度は、リュシアン殿下に関わることなく。

平穏で優しくて、ひたすら穏やかな幸福を。


王妃という立場も、重い(ティアラ)も、名誉も何もいらない。

ただ、穏やかで平凡な優しい幸福が欲しいと、そう願った。


家に着き、私はお母様に尋ねた

私の母は彼女しかいない。

ウブルクのあの人をもう母とは呼びたくなかった。


「ねえ、お母様。……ウブルク公爵家にご令嬢は何人いらっしゃるの?」


お母様は目を丸くして、それから目を細めて微笑んだ。


「──おひとりよ。今日いらっしゃっていたでしょう?ティアラ・ウブルクお嬢様。今後フェリスもお話する機会があるかと思うけど……年齢よりずっと優秀なご令嬢のようよ。そして同時にとても厳しい方のようだから、彼女と接する時はしっかりね」


お母様の言葉で、私は確信を持った。

やはり、この世界にミレーゼ・ウブルクはいない、と。






【一章 完】

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