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一期一会の魔法使い  作者: 有世けい
【番外編】俺の大切な魔法使いへ
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X 月 X 日



今日はMMMコンサルティングの人達がお見舞いに来てくれた。

MMMコンサルティングでは新入りに特定の指導係がつくわけじゃないみたいだけど、きみからは、一人の女の先輩が色々と丁寧に教えてくれてると聞いていたから、俺もその人にお会いしてみたいと思ってたんだ。

いつもきみがお世話になってることのお礼を伝えたかったのはもちろんだけど、それ以外にも、その女の人にはすごく興味があったから。

興味というよりも、ちょっとした疑惑?いや、好奇心?

とにかく俺は、その人にお会いすることで、最近感じていた疑問が解けそうな気がしたんだ。


実際、お会いしてみて、すっかり謎は解けたよ。

きみがMMMコンサルティングに入ってから、言葉遣いがいつも以上に丁寧になってる理由がわかったんだ。

その女の人は、とても丁寧な……というよりは、お嬢様言葉と言った方が正確かもしれないけど、「ごきげんよう」「よろしくてよ」みたいに、貴婦人のような話し方をされていたから。


きみがその人の影響を大きく受けているのは明らかだと感じた。

まあ、もともときみは丁寧な日本語を使っていたとは思うけど。

でも、気付いてる?俺と話すときも「です」「ます」調が増えてきてるって。

もしかしたらそのうち、あの女の人みたいに「ごきげんよう」とか「よろしくてよ」とか言い出すのかな。

ちょっと聞いてみたい気もする。

俺が元気なうちに聞けるだろうか。

………だめだ、また暗くなってきそうだ。何か明るい話題を………



そうそう、その女の人、きみの先輩だと聞いていたから年上の人をイメージしてたけど、お会いしてみたら、俺やきみよりもずっと若く見える人だったのは驚いたよ。

魔法使いは年をとらないというのは本当なんだな。

きみをスカウトしたあいつから聞いた話では、魔法使いは不死ではないし、魔法を使うとその分体力も消耗するものの、魔法使い同士がそばにいれば、特に何をせずとも互いの力で自然と回復するらしい。

そしてその回復は、老いや成長といった時間的な身体の変化さえも覆いつくしてしまうほどらしい。

だから、MMMコンサルティングにいる限り、魔法使いは年をとらなくなってしまうんだ。

MMMコンサルティングには魔法使いしかいないからね。

そういうこともあって、どんなに強い力を持っていても、年齢が若すぎるとMMMコンサルティングには入れないのだと教えてもらった。

でないと、身体的に幼いままになってしまうからだ。


聞けば、きみの先輩の女の人は家族や親戚中が魔法使いで、その影響もあるのか、もともと若く見られがちだったらしい。

その上でMMMコンサルティングに入ったものだから、年齢不詳にさらに輪がかかったんだと笑ってらしたよ。

優しくて、品があって、魔法についてお詳しい、とてもいい先輩だね。

今日お会いできて、本当によかった。

あいつも俺がいなくなった後はきみを支えると言ってくれてるけど、味方が多いに越したことはないからね。


でも、二人だけでなく、きっともっと大勢の魔法使いの仲間達がきみを支えてくれると思ってる。

だから、きみには、そんな大勢の仲間達とともに、たくさんの人々を助けてほしい。

俺の夢が、そうだったから。俺はそのために医者になったんだ。

でも残念ながら、俺にはこれ以上人を救うことはできそうにない。

本当に残念だけど。

だから………いや、俺が果たせなかったことをきみに託したいと思うのは、所詮は俺の自分勝手な希望だよな。

だめだな、どうも今夜は気持ちがそっち方向に流れてしまいがちのようだ。

今日の日記はこのあたりにしておこう。





X 月 X 日



今日、あいつが一人で病室にやって来た。

きみは俺とあいつの二人分の紅茶を淹れてから買い物に出かけたけど、きみが気を利かせてそうしてくれたことは、俺達にはすぐにわかった。

あいつも「いい奥さんだな」としきりに褒めてたよ。

それから、ティーバッグで淹れた紅茶でもこんなに美味いのかと驚いていた。

俺は魔法使いじゃないから、きみの淹れてくれる紅茶にどれほどの魔法が込められているのかわからないけど、あいつの話じゃ、いつもMMMコンサルティングできみが淹れてるものよりは今日の紅茶の方が癒し効果が大きいみたいだった。

「愛のなせるわざだな」と、あいつはひやかしてきたよ。

だけど…………いや、まあいいか。



あいつが今日ここに来たのは、俺にある報告をするためだった。

今の警察の仕事を辞め、正式にMMMコンサルティングに入ることに決めたらしい。

あいつがはっきり告げたわけじゃないけど、その選択にきみが大きく関係しているのは間違いないだろうと思った。

俺の直感は正しかったらしく、問い詰めたら、あいつは渋々認めたよ。


今のあいつみたいに一般社会で職に就いたり普通の生活を送りながら、必要があればその都度MMMコンサルティングに協力するといったバイト的な魔法使いは大勢いるらしい。

現に俺も病院関係でそういうタイプの魔法使いに何人も出会ってきた。

皆理由は様々で、苦労して得た職業を離れたくないと言う人もいたし、MMMコンサルティングに入ることで大切な人と一緒に年をとれなくなるからと言う人もいた。

これはきみも同じだろう?

MMMコンサルティングに入ると決めたとき、きみは、俺と同じように年をとっていくために、他の魔法使いとの関わりを調整していく予定だった。

そうすることで普通の人間である家族と一緒に老いていけると教わったからだ。


そしてあいつだって同じだった。

警察官は、あいつにとって子供の頃からの夢だったはずだから。

だけど今の状況だと、俺がいなくなったあと、きみは年のとり方を調整する必要はなくなるわけで、そうなったら、MMMコンサルティングで魔法使い達に囲まれて働くきみよりも、あいつはかなり早く年をとってしまうことになる。

つまり、俺のいなくなった後、あいつはきみよりもずっと早く命の期限が来てしまう。

それじゃきみを支えることは不可能だ。

だから、あいつも、警察官の職を辞して正式にMMMコンサルティングに入ると決めたんだ。

ただ、あいつは義理堅いところがあるから、その選択に俺が少しでも難色を示すようなら撤回するつもりだったのだと思う。

はっきりそうとは言わなかったけど、もう古い付き合いだから、あいつの考えそうなことはわかる。

そりゃ俺だって、正直、自分がいなくなったあとで、きみのそばにいられるあいつが羨ましいとは思うよ。

しかも魔法使いどうし、命の期限はあってないようなものだ。

でもそれは、俺のほんの一部分の心情でしかないと記しておくよ。

嘘や強がりなんかじゃない。

俺のいなくなった世界で、きみが、俺のあとを追ったりせず、たくさんの人を助ける仕事を続けていくのは、本当に誇らしいし、俺の心からの願いだ。

そしてそんなきみを、俺もよく知るあいつが近くで見守ってくれるというなら、これほど心強いことはない。

そう思ったのも本心だ。


だから俺は、あいつに、きみのことをくれぐれも頼むと頭を下げた。

あいつは言った。

「お前を裏切るようなことはしないから安心してくれ」と。


それがどういう意味だったのか、俺はあいつに確かめなかった。

あいつの言う「裏切り」が何を指していたのか、ちゃんと確かめておくべきだったのだろうか?

俺に残された時間は少ないけど、時間終了までには、あいつにちゃんと聞いておいた方がいいのかもしれない。



ああ、もうこんな時間だ。

うだうだ考えてまた眠れなくなる前に、さっさと寝てしまおう。

寝る前にもう一杯、きみが淹れてくれた紅茶を飲みたいところけど、入院中は我慢だな。

それじゃ、おやすみ。











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