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一期一会の魔法使い  作者: 有世けい
【番外編】俺の大切な魔法使いへ
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X 月 X 日



今日、検査結果が出た。

大方の予想通り、癌だった。

検査内容や自覚症状から大体の想像はついていたが、末期だった。

俺は専門じゃないから、さすがに自覚症状だけでは確実な余命までは見立てられなかったが、それでもまあ、来年の今日は迎えられないだろうなとは覚悟していた。


まさしく医者の不養生だなと思った。

ただ、どんなに健康に気を遣っていてもなる時にはなってしまうのが病気だ。

自分を責めてはいけない。

医師として、もう数えきれないほど患者さんに伝えてきた言葉を、俺は自分自身に投げかけた。


でも、きっときみは自分を責めそうな気がする。

人を癒す魔法使いなのに、どうして俺の病気は癒せなかったのかと、きっときみは自分を責めるだろう。

俺に気を遣わせないために、ひょっとしたら表向きはそんな素振りを見せないかもしれないが、絶対に内心では自分を責め続けるはずだ。

俺が死ぬまで。

いや、死んでからも、きみが生きてる限りずっとだろう。


きみは意外と頑固なところがあるから、いくら俺が気にするなと言ったところで効果はほとんどないと思う。

それに、癌だと打ち明けたら、きっとその瞬間からきみは冷静ではいられないだろうから、落ち着いた話し合いがいつできるようになるかわからない。

だから俺は、きみに隠れてこの日記を残しておくことにした。

俺がどんな思いでいたかを、きみにもちゃんと知ってほしいから。

頑固なきみでも、俺がいなくなって時間が経てば、落ち着いて理解してくれるだろうと願ってる。


いったいどれだけ生きられるのかはわからないが、少なくとも手を動かせる間は、日記を書き続けようと思う。


ここまで書き終えて、今一番気がかりなことは、これからきみに検査結果を知らせなきゃいけないことだ。

泣くだろうか。

早速自分を責めはじめるだろうか。

それとも、自分の癒しの魔法でどうにかしようとするだろうか。

でも、それだけは絶対にやっちゃだめだ。

きみだってMMMの人に教えてもらっただろう?

重い病気を治そうとすればするほど、きみにも負担がかかってくる。

だから俺の病気を治そうなんて無茶を考えるのは絶対にやめてほしい。

きみの命を危険にさらしてまで、俺は助かりたくないんだ。

だがそう言っても、きっと君はあの手この手でどうにかしようとしてくるんだろうな。

それは理解できるよ。

俺だって、立場が逆ならそうしてるだろうから。

でも、俺は、それを望んでいない。

何度でも言うよ。

俺は、きみの癒しの魔法を、望んでいない。


これから毎日きみにそう説得し続けないといけないと思うと、病気とは違う意味で大変そうだ。

俺ときみとの攻防戦が、今から目に浮かぶよ。

でもこれだけは、絶対に譲らないからな。





X 月 X 日



迷った末、今日、俺の病気をきみに打ち明けた。

きみは予想通り驚いて、泣いて、自分の魔法でどうにかできるはずだと叫んで、宥めるのが大変だった。


でも、俺が抱きしめて、背中を撫でているうちに、きみは泣き疲れて眠ってしまって、その寝顔がたまらなく愛おしく思えた。


このまま時間が止まればいいのにと、ドラマとか映画に出てきそうなことを本気で思ったのははじめてだった。

MMMコンサルティングに依頼すれば、それも不可能ではない気もするけど、現実的ではないよな。


ひとまず、来週中には仕事を整理して、病気休暇に入る予定だ。

それまでにきみとゆっくり話し合う時間を持ちたいと思う。

もし必要なら、きみをMMMにスカウトしたあいつも同席させよう。

俺は残念ながら魔法や魔法使いについての知識は乏しいから、それについてはあいつに頼るしかない。

きみが魔法で俺の病気をどうにかしようなんて、無茶なことを考えないよう、あいつからも説得してもらう必要が出てくると思う。


頼むから、あいつの言うことを聞き入れてほしい。


何度も言うけど、俺は、きみの命をすり減らしてまで助かりたいなんて、露ほども思ってないんだから。





X 月 X 日



きみとの話し合いをして、やっぱり、きみが頑固だということを再認識した。

普段は優しそうに笑ってるのに、ここぞという場面では頑なに自分を曲げない。

きみのそんなところも可愛いと思うし好きだけど、今回ばかりは折れてもらわないと困るんだ。

きみの癒しの魔法は、無限に使えるわけじゃないんだから。


きみが納得するまで何度だって言うよ。

絶対に、きみの魔法で俺の病気を治そうなんて考えるな。

魔法使いは全知全能じゃないんだ。

魔法使いだって、死ぬときには死ぬんだから。


これから治療を進めていくうちに、薬の副作用で苦しむ日も来るだろう。

そんなときには、多少楽にしてほしいと願うかもしれない。

それくらいならきみの体にも負担にはならないと、あいつも言っていた。

だけど、病気そのものを治そうとはしないでくれ。


でも、きみはなかなか聞き入れてくれない。

思ってた以上に説得に時間がかかりそうだ。

そうこうしてるうちに、俺は入院が迫っている。

いろいろ考えた末、俺は、最後の手段に出ようと思う。


明日、家にあいつがくる予定だ。

そこで、きみがまだ自分の魔法で俺を助けると言い張るのなら、俺はあいつの前で最後の手段を持ち出すつもりだ。

うまくいくかはわからないが、それ以外にきみを説得する方法が思いつかない。

きみは、突然そんなことを言い出した俺に驚くかもしれない。

でも、そこに至るまでの俺の心境を、この日記で感じ取ってほしい。


ただ、俺がそんなことを言い出したその根底にあるものは、きみへの想いだけだということも、忘れずに記しておこう。













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