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一期一会の魔法使い  作者: 有世けい
霞の中の魔法使い達
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「どうかしましたか?」


俺が尋ねると、男は「ああ、いや……」と、戸惑いを浮かべながら、ゆっくりと小さく、奥の店員を指差した。



「あの二人から、たった今、気配が消えたんだ」

「ということは、つまり……回避できた、ということですか?」

「うん、その可能性が出てきたということだね」


男はそう答えたが、俺にはそのセリフと顔色がまったくのミスマッチに見えた。

爆破を回避できてあの店員達も命の危機から脱せたのなら、もっと喜んだり安堵の表情になってもよさそうなものなのに、彼は喜ぶどころかちっとも納得できなさそうに訝しんでいたのだ。


「じゃあ、よかったんじゃないですか?」


男の様子に違和感を覚えつつも、俺は素直にそう訊いてみた。

すると男はハッとして、次の瞬間には満面の笑顔を見せたのである。


「そうだね。あともう一人の店員も無事が確認できたら、完全に回避と言っていかもしれないね。おっと、ちょうどいいタイミングだ」


男は顔を傾け、俺の背後に向かって「こっちだよ」と合図を送った。

そのあとすぐ、制服の警官が「お疲れさまです」「遅くなりました」と俺の横を通り過ぎていく。


「きみ達二人は奥にいる店員から最近何か変わったことがなかったか訊いてくれるかい?俺達は関係者の拘束に取りかかるから、万が一に備えて店員の保護も任せたい。いいね?」

「わかりました」


さっきから二人の店員は警官に気付いてちらちらとこちらを見ていた。

かろうじて店の外になるので、店員も出方を迷っているのだろう。

二人の警官は指示通り、まっすぐその二人に向かっていった。


そして間もなく、今度は例の二人組が店の前に近付いてくる。

店の奥に入っていった警官の姿は、まだ二人の目には入ってないようだ。

二人は、さっき俺が見た風貌ではなく、中肉中背でいかにも若者らしい格好に変わっていた。

だが、歩き方はやはりさっきの二人と同じだった。

彼らは俺と長身の男の存在が想定外だったのか、急に足を止めた。



「やべ、客いるじゃん」

「しっ!大きな声出すなよ。……仕方ない、客がいなくなるのを待つしかないな」

「でもそんなことしたら、」

「しっ!いいから言う通りにしろ!」



コソコソ声でもこの距離ではしっかり聞こえてしまう。

だが俺達はすぐには反応せず、他の ”MMMコンサルティング” メンバーが合流するのを待つ。

俺の視界の中には、もう全員が入っている。

彼らは店まであと数メートル、数歩、数秒………そして



「――――拘束」




長身の男がそう命じた。



その瞬間、一気に間を詰めた ”魔法使い” 達が、二人の男の自由を完全に奪っていた。

瞬きを許さないほどの一瞬の間だった。


気付いたときには彼らは後ろに腕をまわし、それをカジュアルスーツの男とパーカの男がまとめて固定しており、スカーフの女とベビーフェイスの男はそれぞれ彼らの顔の前で人差し指を立てていた。

その指の先がわずかに光って見えるのは、気のせいなんかじゃないだろう。



「そこじゃ目立つから、店の奥に入ってもらおうか」


長身の男がにこやかに命じると、人差し指を立てていた二人がクイッと指を曲げた。

すると、二人の男がぎこちなく前に進みだしたのだ。


「な、なんだよこれ!」

「どうなってんだ!?勝手に足がうご…」

「少し静かにしててもらえるかい?きみ達を傷付けたくはないんだ」


長身の男が二人に顔を近寄せて、さらににこやかに言う。


「ひっ……」


よほど迫力があったのか、それとも俺から死角になっているところで何かされたのか、二人のうち片方は怯えたように言葉を飲みこみ、もう一人は無言でコクコクと頷いた。


「理解が早くて助かるよ」


長身の男は満足げに微笑み、奥のカウンターの前で二人の膝を曲げさせる。

警官に事情を訊かれていた店員は突然の展開に全身全霊で驚きながら、「この人達がどうかしたんですか?」と、とにかく困惑の声をあげた。


「お知り合いですか?」


長身の男が問う。


「知り合いではありませんが、今日の午前中に来られたお客様の一人です」

「でも、この二人は別々のグループでいらっしゃいました。確かこちらの方は私がお昼休みに出る直前に接客した方で、あちらは私が休憩から戻ったときに彼女への贈り物を探してると仰ってた方です」


俺達がこのショッピングモールに来る前に、すでに客を装ってこの店を下調べしていたというわけか。

だが、店員が覚えているということは、この男達は今と同じ変装でこの店に来ていたということか?

それとも……


「なるほど。今のきみ達は、変装をしていない本当の姿というわけだね。道理で ”魔法” の気配がさっきより減っているわけだ」


長身の男が、あっさりと俺の疑問を解決してしまう。

だが、二人組の男達にとっては解決どころではなかったようだ。


「は?魔法?」


一人は大いに戸惑い、


「テメェ、ふざけたこと言ってんじゃねぇよ!殺すぞ!」


一人は、大いに激高した。


激しく喚きだした男を長身の男が笑みを消してひと睨みするも、そいつを誰よりも素早く制したのはスカーフの女だった。

スッと男の正面に立ち、その額に人差し指をかざす。


「………私、死ねとか殺すとかって言葉、大嫌いなの」


女の人差し指に、光が宿る。


「ひ……っ」

「おい、こいつらヤベェって。魔法とか言い出すし、頭おかしいんじゃないか?なあ、もしかしてお前の幼馴染ってやつもイカれてんじゃないだろうな?」

「幼馴染?」


長身の男が問いかけたそのとき、店の外からものすごい風が吹いてきた。


反射的に両腕を顔の前で構えた俺の横で、長身の男が「そういうことか……」と呟くのが聞こえた。

何が?そう思った直後、



「兄ちゃんに触るなああああああああっ!!!」

「みんな伏せて頭と首を守れ!!!」



二つの絶叫がドンッッッ!!!という爆破音とともに世界を引き裂いたのだった。












誤字のお知らせをいただき、ありがとうございました。

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