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一期一会の魔法使い  作者: 有世けい
霞の中の魔法使い達
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それからショッピングモールに着くまでは、大臣、カジュアルスーツの男、スカーフの女はまた忙しそうに作業していた。

パーカの男は時おりフンフン鼻歌を口ずさみながら猛スピードの車を慣れた手つきで運転していたが、鼻歌以外の時間は終始俺に何かしら話しかけてきた。

後部座席と運転席との会話だ、それなりに大きな声になってしまったが、他の三人は我関せずで作業を続けていた。

おそらくは、大臣の電話する声が聞こえなかったように、何らかの、いわゆる…”魔法” ?がかけられていたのだろう。


………”魔法” なんて言葉を用いるのは抵抗大だが、もうそこは下手に否定するのはやめておいた方が得策だろう。

トリックがあろうとなかろうと、こいつらが何かしらの不思議な作用を起こせるということは紛れもない事実なのだから。


ともかく、パーカの男の賑やかな離話し声にクレームを訴える者はいなかったわけだ。


彼は、自分のこともぺらぺら喋ってきた。

ずいぶん昔に俳優をしていたこと。

その前はアイドルという職業にも就いていたこと。

芸能の仕事をする傍らで ”MMMコンサルティング” と契約し、副業で ”魔法使い” のスカウトをしていたこと。

でもある時期を境に俳優の仕事は辞め、”MMMコンサルティング” に正社員として入ったこと。

この世の中には、俺のように自分が ”魔法使い” になる資格…”魔法の元” を持っていると知らずに大人になり、人生を終える人が多いということ。

彼らは自分と周りの人間との違いに悩んで生きにくさを感じてることが多いということ。

そういう仲間を助け、生きやすいようにサポートするのが本来の ”MMMコンサルティング” の役割だったということ。

そして、今回の爆破事故を予知したのは、以前自分がスカウトした ”魔法使い” だったこと。


男がそこまで話したとき、


「先ほどから我々は爆破事故と口にしていますが、実際にわかっているのはショッピングモールで爆破が起こり、多数の負傷者或いは死傷者が出るということだけです。事故なのか事件なのかは明らかにはなっていませんので、一応頭に入れておいてください」


カジュアルスーツの男が訂正するように告げた。


死傷者………事件の可能性もあるのか。

俺はそう認識した途端、記者としての本分が再生された気がした。

”魔法” だとか ”魔法使い” というフィクション感の強い名称で霞の幕を張られたように感じるが、これはれっきとしたスクープだ。

俺は人のためになりたくて、世に蔓延っている不正や不平等を正すきっかけを生み出すために記者になったのだ。

だったら、今こそそのチャンスだ。


そう思うと、気持ちがピンと芯を取り戻した。


例えこいつらが ”魔法” とやらで俺の頭の中をのぞこうと、記憶を操ろうと、その信念だけは奪われない確信がある。


俺が確かな正義感を取り戻したそのとき、車が目的のショッピングモールの到着したのだった。



駐車場にはすでにワゴン車が用意されており、大臣にはそこで着替えるようにと伝えられた。

乗ってきたSUV車を少し離れた位置に停車させると、ワゴン車からは二人の男が降りてくる。

長身でライトブラウンの髪を後ろで結んだ二、三十代の男と、まだ少年のようにも見える若い男だ。

若い方の男は、俺の後ろに控えるパーカの男と目配せし、少し表情を和らげる。

するとさらに幼い顔にも見えた。

おそらく、パーカの男よりも年下だろう。

だが、舐めてかかるのは禁物だ。

この少年だって ”魔法使い” なのかもしれない。用心しろ。

俺は気を引き締めた。


「お待ちしてました。必要な物は中にありますので、どうぞお着換えください」

「ありがとうございます」


大臣は素早くワゴンに乗り込んだ。

長身の男は大臣を見送りながら、俺をちらりと見てきた。

そして


「こちらは ”未発見” かな?」


誰へともなく尋ねた。


「そのようですね。昨日の記者の一人です。今日の昼食会を聞きつけてきたようです」


カジュアルスーツの男が答える。

長身の男は大きく頷いた。


「ああ、なるほど。クリーニング(・・・・・・)は失敗したということか」

「”未発見” でしたら仕方ありませんよ」


スカーフの女性がモバイルPCを触りながら画面を見たまま言うと、長身の男はニッと意味ありげに微笑んだ。


「すっかり仕事が板に付いてるね。出会った頃は極度の人見知りだったのに」


揶揄い口調で言われて、女性はハッと顔を上げた。

そして長身の男を軽く睨んだ。

といっても身内がするような、冗談風にだ。


「いつの話をしてるんですか?会う度にそれを持ち出すの、そろそろやめてほしいんですけど」


やはりこの二人は親しい関係性なのだろう。

スカーフの女の反論にも、男は楽しげだ。


だが、今はこんな談笑をしてる場合ではない。

軌道修正したのはカジュアルスーツの男だった。


「それで、何か新しい予知は?」


少年に問うと、彼は小さく首を横に振った。


「そうですか。では引き続き何か察知したらすぐに報告を」

「わかりました」

「あなたの方はいかがですか?」


今度は長身の男に尋ねる。

外見の印象では、カジュアルスーツの男の方が若干年上のようにも見えるが、なんとなく、皆長身の男には節度を守っているように感じる。

成人の実年齢なんて個人差があるだろうし、それに……さっき聞いた感じでは、こいつらは年齢を誤魔化せるのかもしれないから、もしかしたら長身の男が一番上という可能性は大いにあるだろう。


彼らのことを取りこぼすことなく記憶に刻んでいたが、長身の男の返事に、俺は事態の深刻さを思い知ることとなる。


「今、1階南側を簡単に見てきたよ。全員を確認できたわけじゃないけど、南側中央付近のコーヒーショップの正面にある時計販売店の店員が三名とも24時間以内に寿命が尽きそうだよ。三名同時ともなると、これは偶然ではないだろうね。その左右の店舗でも一名ずつ、同じく24時間以内の店員がいたから、発生場所はその時計販売店と見ていいと思う」


寿命が尽きる?

物騒なセリフにぎょっとするも、それはまだ序の口だった。


「では、今の段階でも少なくとも死者数は五名ということですね」

「いや……個人の特定はしていないけれど、上のフロアからもその気配は複数あったから、おそらく死亡者はもっと増えるかと思う。これは、大惨事になるだろうね」











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