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一期一会の魔法使い  作者: 有世けい
霞の中の魔法使い達
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突飛が過ぎる妄想話を聞かされた俺と同僚は、一瞬ぽかんとした後、「いやいやいやいや」「こんな時に冗談挟むなんて余裕ですね」と大きく苦笑いした。


ところが、議員は俺達の苦笑いがひと段落するのを待って、もう一度同じことを言ったのだ。

信じられないのも当然だが、”魔法使い” は実在するのだと。

お前達のような一般人は知らないだろうが、この国は昔から ”魔法使い” の存在なくしては成り立たないのだと。


あまりに真剣な物言いに、俺の同僚は、それは昔で言うと陰陽師のようなものかと尋ねた。

正直、俺はその同僚の質問も耳を疑った。

確かに大昔はそういった占いや術師的なものが役職としてあったのだろうけど、この同僚の言い方では、まるで彼の妄想を肯定的に受け取ろうとしてるみたいじゃないか。


すると議員は、自分も詳しくは知らないが、それよりももっと現実的な取引だと思うと答えた。

例えば多くの人に不利益になるトラブルが発生したとき、或いは事故や災害によって多くの人の暮らしが困難になりそうなとき、そんなどうしようもないときは彼ら(・・)を頼るというのだ。

それも、政府主導によって。

つまり、一介の議員には知られていないが、一度でも内閣メンバーになったことのある人間ならば、彼ら(・・)の存在は公然の秘密状態なのだと、数年前に短期間大臣を経験済みのこの議員が説明した。

ただ、彼の在任期間は繋ぎ程度だったのでごく短く、彼ら(・・)の存在自体は知らされていたものの、実際に接する機会はなかったらしい。

彼にとっても ”魔法使い” というのは幻の存在だったわけだ。

だが、総理を含む政府や党の要職メンバーには、彼ら(・・)がいなければ今の日本は成り立たないと、非常に恩義に感じている者もいたらしく、”魔法使い” が眉唾物だと一笑に付すわけにもいかなかったそうだ。


その後、彼は大臣の任を解かれ、”魔法使い” とはいったい何だったのか疑義を抱いたまま議員生活に戻ることとなった。

ただ、それからは一切その名前が耳に入ることはなく、だからといって他の議員に尋ねてもいいものか、或いは身内などに話していいものかさえ判断できず、彼が ”魔法使い” という言葉を口に出すことは一度もなかった。

そうしてるうちに、あれは何かの比喩だったのかもしれない、そうやって自分の中で折り合いをつけていたそうだ。


ところが、件のトラブル相談が持ち込まれ、どうしようもなくなったとき、以前聞いた言葉を思い出したのだという。


どうしようもないときは彼ら(・・)を頼る――――その言葉を。



それを思い出した彼は、藁にも縋る思いで、その件について詳しそうな大臣経験者に相談した。

すると、はじめは渋っていた元大臣も、その義父の企業の新事業が次世代エネルギーに関わってくると知ると、反応ががらりと変わったという。


だが、表向きは単なる民間企業への救済になりかねない。

事は慎重に運ぶべきと各方面への調整や根回しをしていたが、時期が悪かった。

党内選挙で誰もが忙しく、事態がちっとも動かない。

そんな状況に焦れた議員が、仕方なく独断で例の闇献金疑惑を行ったわけである。



追い詰められた末の苦し紛れの言い訳にしてはやたら具体的だったが、それにしても ”魔法使い” なんてファンタジーが現実にあるわけもなく、俺は苦々しさを表情に隠さなかった。

にもかかわらず、同僚の記者はやけに前のめりに議員にあれこれ質問しだしたのである。

俺は、まさか信じるのか?なんだよこの茶番は…と呆れながらも、今日はただの付き添いだからと、横槍を入れるのはどうにか堪えていた。



どうやら、同僚は以前にもこういった類の話を何度か聞いたことがあるらしい。

といっても、俺もいくつかは知っていたが、どれもほぼほぼ都市伝説の域を出ないような内容だ。

ただ同僚的には、都市伝説ができた裏には何らかの意図が潜んでいる場合もあるというのだ。

いったい政治家が何の意図で ”魔法使い” なんて子供騙しを用いるのか、隠れ蓑にするにはあまりに稚拙過ぎるだろうと、俺は腹の中ではこの同僚に対しても呆れ笑いが止まらなかった。


だが、議員は自身で直接 ”MMMコンサルティング” とコンタクトを取ったわけではなく、相談した元大臣が仲介したわけである。

当然、同僚はその元大臣にも取材したいと言い出した。

すると議員は、それはやめておいた方がいいと言ったのだ。

この件に関してはこれ以上深入りするなと、さも親切心であるかのように忠告してきた。

これは脅しや誤魔化しなんかじゃないとも言った。

言うなれば、これはこの国にとっての最大の禁忌なのだと。

下手に深入りして、その後姿を見なくなった人間もいるし、その中には記者だった者もいるらしい……だからくれぐれも気を付けろと、議員はそれだけ告げて逃げるように去ってしまった。



残された俺と同僚は、さてこの後どうしたものかと顔を見合わせた。

真実を知った者が次々と消えていくなんて、大昔から使い古されたお粗末なシナリオに尻込みするようなら、記者なんて名乗るべきではない。

当然同僚は追及の手をゆるめるつもりなんか微塵もないし、俺だって乗りかかった舟だ、協力は惜しまないつもりだった。

議員が金銭の授受を認めはしたものの、この件の真相はまだまだ不透明なままなのだ。

結局、金を振り込んだあと議員の義父の会社はどうなったのか、問題は解決したのかさえもわからずじまいなのだから。


そこで俺と同僚は、すぐさま議員と ”MMMコンサルティング” を繋げたという元大臣を洗い、翌日…つまり今日のことだが、親しい議員仲間と昼食会の予定があるという情報を掴んだ。

今日は土曜。地元に戻りもせずに昼食会だなんて、それだけで何かありそうだ。

ただ、得られた情報では店までは特定できず、俺と同僚はとりあえず翌朝社で落ち合い、動き方を相談することにして昨日は解散となったのだった。



そして今朝、同僚からは綺麗さっぱり記憶がなくなっていたのである。

おそらくは、昨日知った件についての記憶のみが。












誤字をお知らせいただき、ありがとうございました。

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