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ぼくは自分を指差した。
でも、本当に?
”魔法” って、アニメとか昔ばなしの中でしか聞いたことないけどな。
それに、ぼくは呪文とかいっこも知らないし、空を飛んだこともない。
信じられないって顔をしてたら、女の子が今度はフフッて笑たんだ。
「今はまだ ”魔法使い” じゃないわよ。でも、大きくなったら ”魔法使い” になれる才能を持ってるかもしれないわね。普通じゃないとか、人と変わってるっていうのは、魔法使いになるための ”魔法の元” だってパパとママが言ってたもの。だからあなたの予知夢は、たぶん、”魔法の元” なんだと思う」
また ”魔法の元” って言った。
でも、”ヨチム” って、なんだろう?
ぼくがちょっとわからないなって思ってたら、女の子が「あ、予知夢っていうのは、未来の出来事がわかる夢のことよ」と付け足した。
「それって、正夢と同じ?」
「そうねえ………ま、一緒じゃない?よくわかんないけど」
「ぼくのお父さんとお母さんは ”正夢” って言ってたよ」
「そう?じゃあ、”正夢” であってるんじゃない?とにかく、他の人にはマネできないことなんだから、それは ”魔法の元” である可能性は高いわね」
女の子はまたクルッて後ろを向くと、スタスタスタって歩き出した。
ぼくはすぐに女の子を追いかけた。
「待ってよ、じゃあぼくはいつ ”魔法使い” になれるの?おとなになったら?おとなって何歳?ハタチ?18歳?いつ?それに、きみにも ”魔法の元” はあるの?きみのお父さんとお母さんも?でもきみのお父さんとお母さんは大人のはずだから、じゃあ、じゃあ、きみのお父さんとお母さんは、」
「”魔法使い” よ」
女の子は、当然でしょ?っていう感じで言った。
ぼくは、生れてはじめて ”魔法使い” と出会ったんだ。
すっごくすっごくコウフンした!
「すごいや!本物?ねえ、本物の ”魔法使い” なの!?」
「本物よ」
「じゃあ、ほうきで空を飛んだりできるの?カエルに変身したり、毒リンゴを作ったりできるの?呪文でケガをなおしたり、遠い場所にシュンカンイドウできたりする?」
「……映画とおとぎ話とゲームをごっちゃにしないでくれる?」
女の子は顔だけ振り向いて、ちょっと困ったように眉毛を動かした。
ぼくは何か言っちゃいけないことがあったのかなって不思議に思ったけど、”魔法使い” のお話をもっとたくさん聞きたかったから、「ごめんね」ってすぐにあやまった。
「べ、別に謝らなくてもいいんだけど。っていうか、あなたカン違いしてない? ”魔法使い” っていうのは、人に悪いことをするんじゃなくて、人のためになる仕事をしてるのよ?私のパパとママだって、”魔法使い” がたくさんいる会社で ”魔法使い” じゃない人のために毎日働いてるんだから」
「えっ?そんな会社があるの?」
”魔法使い” の会社があるなんて、はじめて聞いた。
女の子は噴水の前で立ち止まると、エッヘンっていう感じに胸を張ってぼくに言った。
「そうよ? ”MMMコンサルティング” っていう会社なの!」
「エムエムエム、コン…」
「コンサルティング。MMMっていうのは、アルファベットの ”M” が三つよ」
「アルファベットって、英語の?」
「そ。まあ、まだ1年生だから知らなくってもしょうがないんだけど、”MMMコンサルティング” っていうのは、ものすごく有名な会社なのよ?」
「へえ、そうなんだ。すごいね!」
「そうなのよ!パパとママはすごいの!だから私もたくさん頑張って、大人になったらパパとママと同じ ”MMMコンサルティング” に入るって決めてるの」
「え、じゃあ、ぼくも頑張ったら入れる?」
「そうね、”魔法の元” を持ってたら入れるはずよ」
「正夢は ”魔法の元” になるんだよね?」
「たぶんね」
「やった!ねえ、きみにも ”魔法の元” があるんだよね?じゃあ、きみの ”魔法の元” は何なの?」
「私?いいわよ、教えてあげる。私の ”魔法の元” はね………」
女の子はニッて唇のはしっこを上げた。
ぼくはゴクッと唾を飲み込んだ。
「―――― ”水” よ」
女の子がそう言った瞬間、パシャンッ!って噴水の水が飛んできたんだ。
「うわぁっ!!」
飛び跳ねた水しぶきが、空中にキラキラ浮かんでいった。
お日様の光がキラキラって水に反射して、とってもキレイだった。
小さな水のツブがたくさん飛んでいったけど、そのひとつひとつが生きてるみたいに元気だったんだ。
まるで、魔法にかかってるみたいだって思ったよ。
「すごい!すごいや!これが ”魔法” !?」
ぼくは大コウフンして女の子に聞いた。
女の子は「”魔法の元” よ」って笑った。
「本物の ”魔法” はこんなものじゃないから。パパとママはもっともっとすごいのよ。私はまだ水をちょっと跳ねさせるくらいしかできないけど、パパとママはもっといろんな ”魔法” が使えるのよ?ほうきがなくても空を飛んだり、遠く離れた場所にもあっという間に行けたりしちゃうんだから!」
「え、それって、さっきぼくが言った ”魔法” じゃないの?」
「う、うるさいわね。ほうきは使わないって言ってるでしょ!それに、”あっという間” と ”瞬間移動” は全然違うから!」
「ちがうのかなぁ……?」
「違うって言ったら違うの!」
「そっか、ちがうのか……」
「と、とにかく!これが私の ”魔法の元” なの。だから私は大人になったら ”魔法使い” になれるのよ。わかった?」
女の子がちょっと大きな声で言うと、噴水の中の水がパシャパシャッって波になった。
まるで女の子の言葉がわかってるみたいだ。
「うん、わかった。でも、ぼくもなれるんだよね?」
ぼくの正夢は、本当に ”魔法の元” なのかな?
もしそうなら、すっごくワクワクするのに。
そうしたら女の子が
「たぶんそうじゃない?ってさっきも言ったじゃない。他の人と違ってるっていうことは、”魔法の元” の可能性が高いもの」
腰に手を当てて言った。
そのかっこうが、お母さんがぼくに注意する時とおんなじだなって考えてたら、またぼくの後ろから話しかけられたんだ。
今度は男の人だった。
「うん。それはきっと ”魔法の元” だろうね」




