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一期一会の魔法使い  作者: 有世けい
公園のキラキラな魔法使い
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――――どうして、ぼくの言うことをわかってくれないんだろう………




ぼくは一人になった公園で、じっと青空をながめた。



「たぶん、もうちょっとここにいれば、いいことが起こると思うんだけどなぁ………」


ぽつりと呟いても、とっくに公園から出ていっちゃったみんなには聞こえるわけないんだけどさ。




今日は夏休み最後の登校日で、小学校で水泳教室が終わったあと、一度家に帰ってからみんなでこの公園に集合したんだ。

みんなを誘ったのはぼく。

”今日この公園にいたら、きっといいことがあるよ” ってみんなに教えてあげたんだけど………


ぼくはもう一度空をじっくり見上げた。



「おっかしいなぁ………。この公園でまちがいないんだけどなぁ………」



ぼくは不思議な気持ちで、いつもとおんなじ青い空ともくもくの白い雲を見ていた。




ぼくが不思議な気持ちになったのは、理由があったんだ。


実は、ぼくはちょっとだけ、未来のことが見えるんだ。

ほんのちょっとだけだけどね。

お母さんとお父さんは、よく ”正夢” って言ってた。

いつからかはわからないけど、ぼくが見る夢は、本当になることが多かったから。

いちばんはじめに気づいたのはお母さんだったっけ?あれ?お父さんだったかな?

……とにかく、お父さんかお母さんのどっちかが、『それって正夢じゃない?』って教えてくれたんだよ。


ぼくは物心…でいいのかな?赤ちゃんのときは憶えてないけど、赤ちゃんじゃなくなってからは、毎日のように夢を見てたんだ。

でも、それを全部憶えていたわけじゃない。

なんとなく、夢を見てたって感じは毎朝あるんだけど、ちゃんと憶えてる夢は何日かおきにいっこくらいだった。

だから、そのいっこはよーく憶えてるんだ。

夢の中で起こった出来事だけじゃなくて、匂いとか、音とか声とかも。

ただ残念だなって思うのは、いつも夢は写真みたいに動かないんだ。

その写真に音とか匂いとか、暑さとか寒さ、お昼なら太陽の光の眩しさとかがくっついてるんだ。

それが、ぼくの夢、”正夢” だった。



でもね、お父さんとお母さんは、ぼくの ”正夢” のこと、ぜったいに他の人には言っちゃいけないって言ったんだ。

どうして言っちゃいけないのかわからなかったけど、”正夢” はいい夢ばっかりじゃなかったから、もしかしたら嫌な気持ちになる人もいるかもしれないでしょ?って、お母さんが教えてくれた。

それはわかる気もするけど、だったら、悪い ”正夢” を教えてあげたら、悪いことが起こらないように注意できるし、逆にそっちの方がいいんじゃないかな?ってぼくは思ってた。

でも、お父さんとお母さんに ”正夢” のことは誰にも言わないって約束したから、ぼくはその約束を守ってた。


……………だけど、昨日見た夢は、どうしても言いたくなっちゃったんだ。 



昨日の夢は、学校のみんなが嬉しそうにしてる夢だった。

嬉しそうに、楽しそうに、両手をのばしてバンザイしてる人もいた。

ぼくの知らない人も何人かいたけど、大人も子供もみんな笑顔だったんだ。


”うわ、すげえ!”

”信じらんない!”

”こんなことってあるんだ!?”


みんなが口々に叫んでた。

夢の場所は、たぶん、この公園だと思うんだ。

だってこの公園の真ん中に立ってる時計塔がちらっとだけ見えたから。


ぼくは後ろを振り向いて時計塔を確かめた。



「うーん………、たぶん、あってると思うんだけどなぁ……」


場所は、たぶん、ここで間違いないはずなんだ。

だからぼく、友達に言っちゃったんだもん。

今日、この公園にいたら何かいいこと(・・・・)があるよ!って。


本当は、夢のことは誰にも言っちゃいけないってわかってたけど、昨日の夢の中のみんなはめちゃくちゃ嬉しそうだったし、すっごく楽しそうだったから、ぼく、どうしても教えてあげたくなったんだよ。

そうしたら、みんなも大喜びでこの公園に来るって言ってくれたんだ。


なのにさ………



ここにみんなが集まってから1時間くらいたったけど、なんにも起こらなかったんだ。



「なにも起こらないじゃんか」

「いついいこと(・・・・)があるんだよ?」

「つまんなーい」



最初は水遊びとかして遊んでたけど、暑くていっぱい汗もかいてきたし、みんな飽きちゃったみたいだったから、ぼくは ”もうちょっとだけ待ってみようよ” って言おうとしたんだ。

だけど、そのとき、通りすがりの人がみんなに 「向こうでテレビのロケやってるよ」って教えたんだよ。

そうしたら、みんな大興奮で、いっせいに公園から出ていっちゃった。

ゲイノウジンに会える!サインもらおう!とかなんとか言ってて、そっちの方が嬉しそうだったんだ。



「ゲイノウジンって、そんなにいいのかな……」


ぼく、よくわかんないや。

テレビは見るけど、アニメとかクイズ番組ばっかりだし。

友達はお笑い芸人さんとかの番組もよく見るって言ってたけど、ぼくはあんまり見てなかったから、ロケって聞いても、あんまりワクワクはしなかったんだ。

夏休みになって夜の寝る時間がちょっとだけ遅くなったけど、やっぱり8時半くらいには眠くなっちゃうから、テレビもそんなに遅くまでは見られないし。

みんなは、遅くまでテレビとか動画とか見てるみたいだけど………



………ぼくって、みんなとちょっとちがうのかな。

だってみんな、最初はおもしろがって公園に来てくれたけど、今日この公園でいいこと(・・・・)が起こるってことは、あんまり信じてはなかったみたいだから。


どうしてみんな、わかってくれないんだろう………



悲しくなって、ちょっとだけ泣きそうになったぼくは、もう帰ろうと思った。


だけどそのとき、「帰っちゃうの?」って聞かれたんだ。











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