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一期一会の魔法使い  作者: 有世けい
最期に出会えた魔法使い
23/67






「カードが、もう一枚………?」



私は、彼女の封筒に入っていたカードと、男性のハンカチに挟まれていたカード、二枚をそれぞれ左手と右手に持って掲げた。



二枚を見比べると、まったく同じというわけでもなさそうで、若干、片方が色あせているようにも見えてきた。

けれど表に ”M” と書かれているのも、その独特なフォントも同じだったのだ。


そして恐々と両方を裏返してみると………


「――――っ!!」



さっき確かに住所や電話番号が書かれていたそこには何も書かれてなくて、でもさっきみたいに、また一文字ずつ浮かび上がってきたのだ。

二枚同時に。

同じ速度で。



”MMMコンサルティング”



まず最初にそう読み取れた。

表の ”M” はここからきてるのだろうか。

感じからして、会社名のようにも思えるけど、やっぱりその名前に心当たりはない。


そうしてる間にも文字は一つずつ出現していって、メールアドレス、郵便番号、住所、電話番号………二枚のカードはどの項目も一字一句違わず同じだった。


最初に比べて、だいぶ落ち着いた状態でカードの変化を観察できたと思うけど、二度めもやっぱりその仕掛けは見抜けなかった。

文字をこすってみても変化はないし、凹凸も感じられない。


でも、彼女はこのカードが私に役立つと思って、わざわざ託してくれたのだ。

彼女のためにも、どうにかしてその意味を解読したい。

そしてそのヒントになりそうなのはあの男性以外にないと思った。


私はすぐさま病室内を見まわした。

彼がまたひょっこり現れていないかと思ったのだ。

けれど、どこにもいない。

彼だけが、このカードの意味を知るはずなのに……


どうしようかとため息吐きかけたそのとき、ふと、昨日の彼女のセリフを思い出したのだった。



――――私が一人で寂しいと気落ちしてる時に限って、どこからともなくカスミ草と共にやって来るんですもの。神出鬼没にね――――




「神出鬼没………」


思えば、私が彼を見つけたときだって、急に姿が見えなくなったかと思えば、すぐにまた現れたりした。

だったら、もしかして、私が呼んだらここに来てくれるんじゃ………



「…………魔法使いさん、いませんか?」


試しに、囁くようにそう声をかけてみた。


けれど、応答はない。



私はもう一度右、左と見まわし、誰もいないことを確認してから、スゥ…と息を吸い込み、そして



「魔法使いさん!魔法使いさん!魔法使いさん!」



声を張り上げて彼を呼んだのだった。



けれど、しばらくしても男性は現れなかった。


彼女が求めたときは神出鬼没に姿を見せたらしいのに、やっぱり昨日会ったばかりの私じゃダメなのかな……


そう諦めかけたけれど、肩を落とそうとしたそのとき、突然背中に風を感じたのだ。



「魔法使いさんっ!?」


勢いよく体を捻ると、目の前には去った時同様、忽然と彼が戻ってきてくれていた。


目が合うと、彼は困ったように肩をすくめ、「きみは人見知りだったんじゃないのかい?」と苦笑した。

その苦笑までもが格好良くて、経験値不足の私は顔を真っ赤にさせてしまう。


けれど、ドッドッドッと心臓のうるさい音に邪魔されながらも、私はどうにか会話を成立させようとした。


「人見知り、ですよ………。でも、これを見つけたので……」


いつの間にかぎゅっと握りしめていた二枚のカードを彼に見せたその指先は、カクカクと小さく震えていた。


どうやら、彼女という心強い友達の存在を失ったせいで、またもとの人見知りに戻ってしまったのかもしれない。

やっぱり、彼女の存在はとてつもなく大きかったんだ。

ただそれでも、私は彼女がくれた自信を手放したくないと思った。



彼はああ…という風に二枚のカードを見やると、「俺が用意するまでもなかったみたいだね」と言った。


「俺は、何が何でもきみにこのカードを渡そうとは思ってなかったんだけどね。彼女の方は、どうしても君に渡したかったらしい」


納得顔でそう告げられても、私には何のことだかさっぱりだ。

ただ、彼が何か事情を知っているのは間違いなさそうで。

でも訊きたいことがあまりに多すぎて、私は何から尋ねたらいいのか惑って、完全復活しそうな人見知りも相まって言葉がこんがらがりそうで。



「………カード?」


そう呟くのがやっとだった。

だけど彼は、そのひと言だけで私が何も知らないのだと把握できたようだった。


「…………仕方ない。最初から説明した方がよさそうだ」


苦笑を解き、ふいに真剣な面差しに変わった彼に、私もちゃんと聞かなくちゃと、人見知りを拭って心と耳を澄ませた。

けれど、聞く姿勢を整えた私に対し、彼は思わぬ口火を切ったのだ。



「きみは、魔法使いを信じるかい?」

「………はい?」

「俺はね、魔法使いなんだよ」


真剣に微笑む彼。


「はあ……。それは、昨日も聞きましたけど……」

「でも昨日は冗談だと思っていただろう?まあ俺と彼女も冗談に聞こえるような言い方をしていたけど」

「………冗談ですよね?」

「冗談じゃないんだ」

「………じゃあ、言葉の綾とかですか?」

「言葉の綾でもないよ。本当に、正真正銘魔法使いなんだ」


その瞬間、カァッと頭に熱が駆け上がった。


「こんなときにふざけないでくださいっ!」



感情が弾けたおかげで、私の強固な人見知りもどこかへはじけ飛んでしまったのだった。












誤字報告いただきありがとうございました。

訂正させていただきました。

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