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一期一会の魔法使い  作者: 有世けい
最期に出会えた魔法使い
18/67







「それでそれで?その後は?」

「それから、振り向いた彼が私に『これのこと?』って花束を指差してきたの。しかも、『気に入ったのなら、ちょっとお裾分けしようか?』なんて訊いてきたものだから、私、催促したみたいで恥ずかしくなっちゃって……。でも彼は優しい笑顔で花束の中からカスミ草を抜いて私に渡してくれたの。『はいどうぞ』って」

「何それ、本当に映画やドラマみたい!」

「でしょう?しかもその後に彼何て言ったと思う?」

「何なに?」

「『カスミ草の花言葉は ”幸福” だよ。だからきっと、もうすぐ幸福がやって来るはずだよ』って、そう言ったのよ」

「うわぁ………それは出来過ぎだわ」

「何よ出来過ぎって」

「いやだって完璧過ぎない?」

「でもこの話はこれで終わりじゃないの」

「ええ?まだ何かあるの?」

「そうなの。カスミ草をもらった時、私ってばつい気が緩んじゃったみたいで、誰も見舞いに来てくれないとか、ずっと一人だとか余計なことを口走っちゃったのよ。でね、それを聞いた彼は、なんと次の日から来院した時は必ず私の病室にも立ち寄ってくれるようになったの。毎回カスミ草を持ってね」

「何それ、映画っていうより、少女漫画じゃない!」


想像の数倍はキラキラした恋愛話に、私はすっかり魅了されていた。


「それで、病室で会っているうちにその人のことを好きになっていったのね?」


ウキウキ気分で尋ねた私に、彼女は「ん―――」と複雑色をのぞかせた。



「恋愛感情かと言われたら、微妙に違うのよね……」

「え……、どう違うの?」

「そうねえ……彼は背が高くてとっても格好よかったけど、恋愛感情というよりは、雲の上のアイドルに憧れるような感覚の方が近いのかも。あまりに格好よすぎて、リアルっぽくなかったのかもしれないわね。でも彼にはとっても感謝してるの。入院中、私が寂しいなと思ったときに限ってよくカスミ草を持って来てくれたから、彼と出会って以降は入院生活も全然寂しくなかったの。それで私、カスミ草が大好きになったのよ。ちなみにカスミ草の花言葉には ”幸福” の他にも ”感謝” というもあるのよ?」

「へえ、そうなんだ………あ、それで珍しくお見舞いはカスミ草がいいって私にリクエストしたの?」



優しい彼女は誕生日もお見舞いもいつも遠慮していたけれど、今日はじめて「カスミ草をもらえたら嬉しい」と言ったのだ。

友達からのはじめてのリクエストに、私は学校が終わるや否や飛び出して花屋に駆け込んだ。

幸いカスミ草なら高校生の私のお小遣いでも買えたし、カスミ草だけのブーケはなんだか線の細い彼女のようで、繊細に可愛らしかった。



知り合ったのは約一年前、彼女が風邪をこじらせて入院したのが先々週なので、私が彼女のお見舞いに訪れるようになったのもそれからだ。

今まで友達のお見舞いなんて経験がなかった私は、毎日学校帰りに通いつつも何を差し入れしたらいいのかわからず、来るたびに彼女に尋ねていたのだった。

そしてとうとう今朝、待ちわびていた彼女から初リクエストがメールで届いたのである。



「………あれ?でもどうして今日突然メールくれたの?昨日まではその人のこととかカスミ草のこととか、全然そんな話してなかったのに」


ふと思ったことを尋ねると、彼女は「実はね…」と嬉しそうに目を細める。


「実は……?」

「実は……昨日の夕方、お見舞い受付のカウンター近くでその彼を見かけたのよ!」

「ええ!?本当に!?」

「私ももう驚いちゃって。最後に会ったのはいつだったか覚えてないくらい前だったから、めちゃくちゃ久しぶりだったの!」

「すごいじゃない!」


入院した病院で久しぶりの再会だなんて、本当に漫画みたいな展開すぎて、ついここが病室だということも忘れて叫んでしまった。

でも、彼女の方だってかなりの興奮度だ。


「すごいでしょ?急いでたみたいだから声はかけなかったんだけど、間違いなく彼だった。ものすごく目立つ人だから間違うはずないもの」

「それにしてもすごい偶然ね。ううん、これって運命なんじゃない?」

「ね?私も、一晩経ってもまだ信じられないくらいよ」


うっすらと頬を染める彼女が、とても可愛らしいと思った。


「そっか、それで私にカスミ草をリクエストしたんだ?」

「そうなの。ワガママを聞いてくれてありがとう」

「お安い御用よ。そんなに喜んでもらえて私も嬉しい」

「ありがとう。でね、もし、時間があったらでいいんだけど……」


彼女はちょっとだけ言いにくそうにテンポを落とした。


「うん?なあに?」

「あのね、ちょっとお願いしたいことがあって……」

「なになに?何でも言って」


ほぼほぼ人生初の友達からのお願いなんて、全力で叶えたいに決まってる。

私の乗り気に安心したように、彼女はまるで少女のように願いを口にした。



「彼を、探してくれない?」



それは、思ってもなかったことだった。

予想から大きくはみ出た彼女のお願いに、私は「え……?」と鈍い反応をしてしまった。



「もちろん、探すのは病院の中だけでいいんだけどね。もうすぐ、昨日彼を受付で見かけた時間になるから………。たぶん、今日も来てそうな気がするのよね」

「ちょ、ちょっと待って、彼って……その憧れてた人だよね?」


焦る私に反して、彼女はニコニコ顔で「そうよ?」と頷く。


「たぶん今日も誰かのお見舞いに来てると思うの。それなら、ひょっとして会えないかとなと思って。ほら、私、今日は点滴してるから動きまわれないでしょ?ね?お願い。私の代わりに探してきてくれない?」


これまでの遠慮が嘘のように、彼女は強くお願いしてきた。

彼女のお願いなら何でも叶えてあげたい。

叶えてあげたいけど…………率直に言って、この依頼は私には不可能だと咄嗟に感じてしまった。



「あ………ええと……」

「だめかな?」

「だめっていうか…………でもさ、私はその人の顔とか知らないわけだし、探しようがないと思うんだよね」


それらしい言い訳で逃げてみるも、


「大丈夫よ。背は180以上、金髪に近い茶髪の長めの髪をハーフアップにしてて、とにかくやたら格好よくて目立つから、見たら絶対にわかると思う」


すぐさま逃げ道を塞がれてしまう。


「へえ、そうなの……?でも、私…………ほら、知ってるでしょ?物凄い人見知りだって。知らない人とはうまく話せないし、愛想も悪いし……きっとその人を嫌な気分にさせちゃうと思うの。だから、誰か他の人に頼んだ方がいいんじゃないかなぁ……って」


私が人見知りでずっと友達もいなかったこと、彼女は知ってるはずだ。

彼女とだって、はじめの頃はちっとも話せなかったのだから。

案の定


「そうだったわね。ごめんなさい、ワガママ言っちゃって」


彼女はすぐに引いてくれた。

けれど


「じゃあ、仕方ないか………残念」


本当に心から残念そうにそう呟いたものだから、私は胸がキュッと痛くなってしまう。

だって、彼女ははじめてできた友達で、その友達がこんなにもがっかりしてて…………友達の願いは、やっぱりどうにかして叶えてあげたくて。



「……………待って」



私の中の勇気をかき集めて、彼女に呼びかけたのだった。










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