プロローグ
私の目の前に広がるこの炎の海は一体何なのだろう。
これが、私の故郷なの?
……知らない。こんなの知らない。
私は何をしたの?何をしなかったの?
わからない。なにも。
嘗て世界一美しいと言われていたミューンジュラ大森林の都は燃えていた。
ただ茫然と、私はそれを眺めていた。
100年。この都で過ごしてきた日々は、余りにも窮屈なものだった。
唯の一度も、王宮の部屋から出たことはなかった。出ることは許されなかった。
初めて見たミューンジュラは燃えていた。沢山の悲鳴が聴こえる。耳を塞ぐ。
ずっと見てみたいと願ったミューンジュラ。鳥籠のような部屋で読んだ本に描かれていたのは、エルフと妖精の国であり、聖樹と共に生き、自然豊かで、まるで天界のような絶景が広がっていること。
こんなのが見たかった訳じゃない。
「…… ごめんなさい。」
そう呟いてみたけれど、私は何に対して謝っているのか、自分自身わからなかった。
今日はクレーデルお兄様の誕生日。私もお祝いがしたかった。だから、沢山考えて練り上げた、この部屋からの脱走が成功した時は、すごく嬉しくて誇らしく思った。
クレーデルお兄様は、私が不憫だと言い、何度も会いに来てくれて、いろんな話をした。嬉しかった。クレーデルお兄様以外の家族に、私は疎まれているから。皆、美しい金髪に宝石の様な青い瞳。青い瞳は王族である事の証。私の瞳は赤いのだ。王族の末娘である私は、その美しい青い瞳ではなかった。おまけに銀髪。お母様とお父様は、厄災を招く子と言い、私を王宮の誰も近寄らない部屋に隠し、私を無かった事にしたのだ。7人兄妹である私達は、世間では6人兄弟とされていると、クレーデルお兄様に聞いた時は哀しくて哀しくて絶望した。でも、クレーデルお兄様が会いに来てくれるから、私はその小さな部屋でも幸せを感じていた。
「クレーデルお兄様驚くかなーー」
そんな期待を胸に王宮を歩いていた。初めての外。こんなにワクワクするなんて。本で見た花が咲いているなとか、鳥は本当に空を飛ぶんだと感心していた。
暫く歩いていたら、けたたましい声が聞こえてきた。
「それはならんと言っている!」
「しかし!」
大きな扉の向こう側。少したけ開けて覗いてみた。
奥の立派な椅子に座っているのはお父様だろうか。凄く怒ってる。クレーデルお兄様は一体何をしたというの?
「あれは余の娘ではない。厄災を招く不吉なものだ。お前がアレに関わっていたのは知っていたが今日まで黙っていたのはお前が子供でいつか飽きると思っていたからだ。それをぬけぬけと!」
「あの子は私達の家族です!髪色や瞳の色なんかじゃなく彼女自身を見てください。お兄様方もあの子に会えばきっと考えが変わる筈です!」
クレーデルお兄様以外のお兄様達は面識が無い。でも直ぐに兄妹だとわかった。皆美しい。あの青い瞳。
「クレーデル。その辺にしておけ。いくら兄弟であれ、これ以上の狼藉は許さない。」
「だいたい、本当にそんな奴存在するのかよ。」
「僕も話は聞いた事あるけど見た事ないし〜。あ、そうか!そいつ厄災をもたらすから閉じ込められてるんだよね〜。ごめんごめん。クレーデルの妄想かと。」
次々と私への悪口やクレーデルお兄様を馬鹿にする言葉を投げ掛ける彼らは、見た目とは反して私には醜く写った。
あとのことは余り覚えていない。気がついた時には、聖樹の幹に腰を下ろしていた。
嘗て世界一美しいと言われていたミューンジュラ大森林の都は燃えていた。
何度も見たいと思いを馳せた。
花も鳥も、もう見れない。
今日はクレーデルお兄様の成人のお誕生日。お兄様はどこに行ってしまったのだろう。お誕生に何を願ったのだろう。
「お兄様に会いたい……」
私は静かに涙を流し、そっとその炎と同じ色をした瞳を閉じたのでした。
初めまして。この度は疎む世界は今日も憂鬱とを読んでくださり有難うございます。
初投稿で緊張していますが、これから誰かの心に刺さるような、ただし私の思い描いた物語を書いていきたいと思います。
近々1話を投稿予定ですので、そちらもよろしくお願い致します!
惰眠寧々でした。