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126話 鉄道攻防戦


「おい、早くしろ! 夜が明ける前にカタを付けろ! じきに汽車が来ちまうぞ!」

 

 暗いトンネルの中に、男の声が響き渡る。


「静かにしろ、声が跳ねる!」


 返ってくる声はしかし、焦りを多分に含んだもの。

 数人の男達は不慣れな手つきでおっかなびっくりと、壁に『それ』を設置してゆく。

 

「し、しかし幾らなんでも、こんな大それたことを……」

「うるせぇ、もう金は貰ってんだ。今さら後に引けるか!」

「そうだ。何もトンネル全部を崩すわけじゃねえ。ほんの少し地下水を引きこんで、列車の運行を阻止するだけだ」


 男の一人が、壁を叩く。最新式の技術で舗装されたそれは、ちょっとやそっとの衝撃ではびくともしないように思われた。 この厚い壁の向こう側には、幾つもの配管が通っており、地下水を地上へと輩出しているのである。

 

「この新型爆薬なら、壁を崩して水を引き込むくらい、わけはないぜ」

 

 地図もこうして、男達の手の内にある。

 何処をどう崩せばいいか、予め知っているのだから容易い物だ。

 

「取り扱いをしくじるなよ、下手をすれば俺達まで吹き飛ぶぞ」

「わ、わかってる。準備は――」


 リーダー格の男の声に、他の者達が頷こうとした、その時であった。

 暗がりの中に、重い音が響き渡る。


「な、なんだ!?」

「お、おい見ろ!  

 

 男達の目の前で、壁に備えられた扉の一つが、ゆっくりと開いていく。

 

「――ヒッヒッヒ。おやおや、おりましたねぇ。暗がりに数匹、蠢くネズミ共が」


 男の一人がランタンを翳す。仄かな灯りの中で、黒い人影が浮かび上がった。

 特徴的な鷲鼻、ギョロリとした大きな目。暗闇にぽっかりと照らし出されたそれは、悪魔めいた風貌と言って差し支えない。

 

「な、何!? ば、化け物――!」

「違う、良く見ろ! コイツは……馬鹿な! 何でてめえがここに居る!?」


 男達の悲鳴を心地良さそうに聞き流し、『彼』は手を翳す。

 

「あ、悪食警部……ベンジャミン・レスツール!」


 驚きに足を止めたこと。それが彼らの明暗を分けた。 

 途端に、周囲の扉が開き、何人もの警察官たちがそこから押し寄せてくる。

 

 抵抗も、何も出来ない。そもそもが練度も違えば、心構えも段違い。瞬く間に制圧される男達を見て、悪食警部は嗤い出す。

 地の底から響くような、不気味極まるその声に、誰もが怖気を覚えて震えあがった。

 そう、それは味方側である警官たちも同様。皆一様に、引き攣った顔で名物警部から目を反らしている。

 

「け、警部! 全員、捕らえました!」

「ひひひ、ご苦労様。そうそう、身元を確かめるのも忘れずにねえ。手柄はそちらにお渡ししますので。結果だけちゃーんと教えてください。お願いしますよ、お願いしますぅ……ヒッヒ」

「は、はい……!」

 

 多種多様の反応を、むしろ面白がるように受け止め、ベン警部は禿げ頭をつるりと撫でた。

 壁に備え付けられた爆薬を眺め、ため息を吐く。

 全く、こんな物まで用意するとは。これだから貴族――それも御三家を気取る大物のやる事は、スケールがデカい。

 ここは、エルドナーク東部から各領地、そして新王国への国境沿いまで繋がる大事な路線。

 王都のネーバ川から繋がる水底トンネルなのである。

 

 下手に壊されて水没でもされれば、被害は甚大極まる。

 まさしく、大それた行為だ。発覚すれば、国家反逆罪にまで問われる事、間違いないだろうに。


「それでも、やる。全く、ミスターの言う通り。破滅嗜好極まりますねえ、本当にイカレている」


 こういう手合いが一番に厄介なのだ。長年の経験でそれを知る警部としては、体の底から震えが走る。

 それが畏れか、はたまた悦びか。ベンジャミン自身も知る由も無いし、知りたいとも思わない。

 

「困るんですよねえ、こういうことをされると。『彼ら』は私にとっても大事な盟友ですので。邪魔はさせやしませんよぉ」


 何せ、まだ。自分の目的を果たしていない。

 懐にある『お守り』を握りしめ、悪食警部はそっと目を伏せた。

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「……合図があったぞ、あれがゲルンボルク商会の車だ。あの御方が言った通りの時間だな」


 駅へと続く通りの片隅。古びた建物の陰に、その男は居た。

 朝焼けが色濃く残る、眩しい日差しに目を細め、忌々しそうに瞼を抑える。

 顔は強張り紅潮し、いかにも興奮しきった顔で、男は荒い息を吐き出す。


「今こそ、恨みを晴らす時だ。向こうの連中に先を越させる前に、俺達でやってやるぞ」

 

 男は双眼鏡を片手に、もう片方の腕を上げ、後に続く仲間達へと指図を示す。

 

「準備は出来ているんだろうな」

「はい。既に、構内に配置は済んでおります」

「よし、よし、よぉし!」


 狂気すら孕んだ瞳で、男は唇を吊り上げた。

 

「お前達も行け、しくじるなよ。上手く行けば、皆揃って人生逆転だぞ。お貴族様の庇護の元、大手を振って再雇用だ!」


 押し殺したような歓声が上がり、男達が順繰りに構内へ向かって駆け出していく。

 それらの姿を見送り、男は肩を震わせた。

 

「傷はなるべくつけるなとか何とか言っていたが、構うものか。金? 名誉? そんなものはもう、どうでもいい!」


 万感の思いを込めて、拳を握りしめる。

 肉が破れ、血が滴り落ちるが、その痛みさえも今の彼にとっては甘美なものだ。

 あの貴族は、小娘――ゲルンボルク夫人の身に傷が付くことをひどく疎んでいるようだった。

 ならば、そう。それをやってやらない理由が無い!


「どいつもこいつも、人を好き勝手に操ろうとしやがって。貴族がどうした、大商人がなんだ! 今さら俺が、そんなものに尻尾を振ると思ったか! 金と地位さえあれば、何でも自由自在と己惚れるなよ」


 壊してやる――そう、男は呟く。

 何もかも、全部。光と影の間で踊る連中の思惑を、潰してやる。

 

「アイツも憎いが、お前は最悪だ。そうだろ? 俺の会社を乗っ取りやがった罰だ。ああ、これは正当な復讐だ!」


 双眼鏡を覗き込むと、車から降りて来た複数名の男女が、今まさに駅の構内に入っていく所が見えた。

 その後姿に、確証を認め、男は奇声を上げながら壁を殴りつける。


「アーノルド・ゲルンボルク……てめえも妻ともども、地獄に落ちろ!」


 顎が外れたか、とばかりに男は哄笑する。

 途端、周囲から奇異の視線が突き刺さるが、それすらもどうでも良い事であった。

 誰が知ろう。ほんの数か月前まで、彼は下々の民を見下す立場にあった事を。

 かつて、『万能の栄養薬』を謳い上げ喧伝し、一時の栄華を築いた者。

 製薬会社・ガヅラリーの『主』であったその男は、血走った目を細め、食い入るように駅を――そこに居るであろう仇敵の幻像を、ただただ見つめるのだった。

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 雑多な人が行き交う駅構内ターミナル

 大柄な男にエスコートをされ、二人の女性がしずしずとその後ろに続く。

 その身なりは如何にもな、上流階級のもの。薄紅の外出用ドレスを身に付けた女性たちの姿は、遠目からも華やかに見えた。

 前つばの付いたボンネットを深々と被り、俯き加減に歩くその様は、まさに控えめな淑女そのもの。

 

「――やれ」


 何処からかぼそりと、声が呟かれる。掠れるような、その囁きは人の波に紛れ、埋没してしまう。

 しかし、その意味を知る者達にとっては、それで充分であった。

 視線のみで互いに合図を送り、男達は『目標』に接近する。

 

 当然、周囲には警護役であろう者達が数名、控えては居る。

 彼らはそうして、ある一定の線から先へは進ませまいと周囲に目を光らせていた。 


 だが、問題は無い。

 何がどうあろうが、役割を果たす。そうして再び、『健康』に踊らされる者達を誑かし、甘い汁を啜る生活に戻るのだ。

 男達の頭にあるのは、それだけであった。

 

「――失礼。今、ハンカチを落とされたようですが」


 紳士の身なりを装い、男達の一人がステッキを片手に警護へと近づく。

 

「何? いや、そんなものは――」

「良く見て下さい。これですよ」


 警護の一人が眉を顰め、身を乗り出した――その瞬間。

 

「うわっ!?」


 悲鳴を上げ、護衛が顔を仰け反らせた。

 辺りに粉じんが舞い、白い塵のようなものが、その指の間からパッと散る。

 

「そらっ!」


 男達が、次々と懐に忍ばせた小袋を投げつける。

 それらは大量に中身を拭き散らし、瞬く間に空間を白く染め上げて行く。   

 

「何だっ!?」

「きゃああああ!?」


 周囲に響く怒号や叫び。その内の幾つかは、男達の仲間が起こしたものだ。

 パニックを起こした人々につられたか、警護達は完全に混乱をきたしているようだった。棒立ちになり、オロオロと周囲を見回している。手筈通りだ。男達は笑みを浮かべた。警護役の何人かは、既にこちらに抱き込んである。最初に小袋をぶつけた男も、その一人だ。約束通り、大袈裟に反応を示してくれた。何もかもが上手く行っていると、男達は確信する。

 

 その証拠に、彼らは混乱したふりをして同僚たちを阻害し、目標までの道のりを開いてくれた。

 

「いけ、やれ! 後の事は社長が全部取り持ってくれるぞ! 帽子に、薔薇の刺繍をした老婆だ! それを真っ先にやれ!」


 興奮に精神を昂ぶらせては、指示も何もかもが頭から吹き飛ぶと、そう思ったか。

 男の一人が、手筈を確かめるように声を上げて目的を告げ、成就させようと叫び散らす。

 

「マリーベル・ゲルンボルクに呼吸をさせるな! 粉じんを撒け、撒き散らせ――ごほっ! ごほっ!」


 あまりにも叫びすぎ、彼もまた息を吸い込んでしまう。

 石灰と香辛料入りのそれは、一度口にすれば地獄だ。男はそれを、身を持って知ってしまう。

 だが、それもまた承知済みである。鼻水と涙を盛大に垂れ流しながら、身振り手振りで示す。

 

「やれ、ごほっ! やれ、やれぇぇぇ!」


 男達の何人かは、既に顔の周りを布で覆っている。無論、即席で巻いたそれが完全に効果を発揮しているとは言い難い。それでも欲望と怨みが、体を突き動かすのか。執念を持って、男達は刃物を手に突進してゆく。

  己の手で、復讐を遂げる。怨みを晴らす。誰もが皆、昏い喜びに顔を歪ませていた。

 

 最初の一人が手を伸ばし、遂に薄紅色のドレスを掴み取った――その時だった。

 

「ごべっ!?」


 くるり、と。男の体が反転し、そのまま床に叩きつけられた。

 同時に、老婦人の手が閃き、そこから伸びた細く煌めく何かが、後続の男達の体に絡みつく。

 

「な、んだこれ――ひぎぃ!?」

「い、いでぇぇぇ!! いでぇぇよぉぉぉ!」


 血と苦痛をを振り撒きながら男達は崩れ落ち、のたうち回る。


「な、何だ!? あ、あの女がやったのか!?」


 仲間の体が盾となり、難を逃れた何人かが、ギョッとして立ち止まる。

 老婦人は足元に転がる男の体を踏み付け、艶然とした笑みを浮かべた。

 

 やがて大きな蒸気音とともに、風が巻き起こった。貨物列車が出発したのだろう。

 それに吹き散らされるように、粉じんが遠のき、視界が明瞭に戻ってゆく。

 

「あら、もう終わり? そんなにも間の抜けた顔を晒して、どうしたのかしら?」


 不思議そうに首を傾げる老婦人。

 だが、その口から囀られた言葉に、男達は誰もが困惑の表情を浮かべた。

 何故なら、彼女の唇から漏れ出たそれ。その声には老いの気配の一切が無く、若々しさに満ちたものであったからだ。

 

「お前、なん――ぎゃっ!?」


 茫然とそれを眺めていた男達が、次々に取り押さえられてゆく。

 全く予想もしない方向から伸びた手。それは逃げ惑い、パニックになっていた筈の『乗客たち』の物であった。

 

「こいつ等が、商会長の敵ですかい!」

「舐めた手を使いやがって! こいつ等、見覚えがあります! ガヅラリーの連中ですよ! それも本社筋の奴等だ!」

「自業自得だろうってぇのに、逆恨みしやがって! 商会長を狙うだけならまだしも、その奥方を狙うってぇのが気に入らねえな!」

 完全に身動きを取れなくされ、男達はわけもわからないままに拘束されてゆく。

 

 その光景を、指示役の男が呆然と眺めていた。

 物陰に潜み、息を殺しながら必死に状況を把握しようと四苦八苦する。

 見れば、職務を放棄していたであろう警護役の男達――内通者もまた乗客たちの手で取り押さえられ、目を瞬かせていた。

 

「まさか、こいつ等。ゲルンボルク商会の――!?」


 ――計画が、漏れていた? まさか、そんな、どうして!

 男は混乱の極みにありながらも、それでも己の職務を果たすべく、そっと腰を浮かせた。

 

「くそ、仕方が無い! こうなれば、最後の仕込みで――」

「えいっ!」


 可愛らしい声が響くと同時、男の頭に固い物が振り下ろされた。

 完全に予想外の一撃。もはや悶絶する他は無く、何の抵抗も出来ずに蹲り――

 

「やったわ、やった! ウィル見て! 私、やったわ!」

「ニーナ!」

「ぐべっ!?」


 蹲った男の背を踏んづけ蹴飛ばし、誰かが『彼女』に駆け寄って来る。

 


「私ね、ちゃーんと見てたのよ! この悪者が、この陰にコソコソ隠れるの。こういう時、親玉さんは手下を見捨てるんだって、マリーから借りた小説にあったもの!」


 最愛の夫の姿に、薄紅色のドレスを着た淑女――ニーナ・リレーが、ステッキを手に胸を張る。


「あぁ、君は勇敢だよ。戦乙女のように素敵だった! けれど、無茶はしないでおくれ! 君に何かあれば、僕は、僕は……」

「ぐぼげっ!?」


 へなへなと座り込む、ウィル・リレー。その尻に敷かれ、男は哀れ、カエルが潰れたような声を出す。

 恐らくは、それがトドメになったか。丁度良い感じに急所を潰され、彼は白目を剥いて気絶する。

 

「ウィル、凄いわ! 悪者さんをやっつけたのね!」

「え? あ、あぁ……うわぁ……」


 己が為した所業に、いささかの居心地悪さを感じたか。

 大きなフロック・コートを揺らし、ウィルは男の体をステッキでつついた。

 

「何だと……? アーノルド・ゲルンボルクじゃ、無い……? そっちの女も、ゲルンボルク夫人じゃ――」


 拘束された男達の視線は、呆然を通り越して恐慌一歩手前の忘我状態。

 何が何だか分からない。言葉に出さずとも、誰の顔にもそう描かれていた。

  

「ま、まさか。おま、お前も――」

「あら」


 老婦人に踏み付けられていた男が、必死に顔を上向けて、正体を確かめようともがき出す。

 その表情を覗き込むようにして、婦人は淑やかに微笑んだ。

 

「――今頃、気付いたのかしら」


 手にしたハンカチで、顔を丁寧に拭って落とす。

 その下から現れたのは、先ほどまでとは似ても似つかぬ姿。

 

「な……!?」


 驚愕を顔に貼り付けたまま、男は脇腹を抉り蹴られ、息を詰まらせた。

 

「ミセス・マディスン!」


 リレー夫妻がこちらに駆け寄って来るのを見て、彼女――レティシア・マディスンは笑みを浮かべた。

 

「何をするかと思えば、だいぶ無茶をしたようね」

「ご、ごめんなさい……! マリーの為に、何か出来るかって思ったら、つい……」

「この場を引き受けてくれただけで十分よ。それだけで、感謝の言葉もないというのに、貴女の身に何かがあれば、どうなると思う?」

「ど、どうなるのですか?」

「マリィが暴れるわ」


 それだけで、脅しの言葉としては十分だったらしい。

 身を縮こまらせる妻の肩を抱き、夫が耳元で何かを囁いている。

 その光景が少し羨ましいと、レティシアはそう思う。何せ今、自身の隣に最愛の人が居ないのだから。

 

 もしもそんな寂しさを少しでもディックに漏らせば、どうなるか。それは考えるまでもない事だ。

 彼はそれこそ永遠に愛の言葉を囁き続ける機械と化すだろう。不眠不休だってやってのける。レティシアの夫はそういう男だ。

 

 しまいにはアーノルドの鉄拳が振る結末すら思い浮かべ、苦笑する。

 恐らくその時には、呆れ顔のマリーベルも彼の隣に居るだろう。

 そんな当たり前の光景、日常を取り戻す。それが、今のレティシアの願いだった。

 

(……うん?) 

 

 その時、微かに。妙な違和感がレティシアの背を擽る。

 少し離れた場所にある、鉄道車両。これから本来、自分達が乗り込むはずだったそれ。

 本能めいた何かが、彼女の直感を閃かせた。


 リレー夫妻を庇うように身を伏せ、声の限りに叫ぶ。

 

「――皆、汽車から離れてっ!」


 瞬間、機関車の後方から爆発音が響き渡った。噴煙が舞い、辺りが騒然とし始める。

 レティシアは視線を四方に飛ばし、視界に映る範囲での被害を見た。

 リレー夫妻は無事だ。抱き合い、互いが互いを庇い合おうとしている。

 

 付近に居る商会員たちも、驚いてはいるが無事。後は、列車に近い人間達――

 

 

「すぐに状況と、怪我人を確認! そいつらは転がしておいていいわ! 警察隊と対応する人間とに分かれなさい!」


 てきぱきと指示を出しながら、レティシアは素早く立ち上がり、爆発のあった方を見る。


「ざんねん、だった、な……! こんな事もあろうかと思い、最後の手段も用意しておいたのさ……!」


 男の一人が、勝ち誇ったような声を上げた。

 それに続くように、他の面々も高らかに囃し立てる。


「上手く行くかは賭けだったが、やったぞ! 当分、アレは走らん。今日を逃せば、他に最短のルートは、もう……」


 視線の先、蒸気機関車の後方部分が砕け、そこから煙が吹き上がっている。


「今の便が、始発であった、はず……! はは、ははは! 仕留めそこなったが、これで、これで――」

「――勝ったと、そう思うの?」


 男の口が、ポカンと開かれる。

 何故なら、レティシアのその顔に焦りは微塵も無い。

 それどころか、勝利を確信したような、満足げな笑みすら浮かべていた。

 

「あまり、あの人を――アーノルド・ゲルンボルクを舐めない事ね」 

更新が遅くなり、申し訳ありません!

次回は8/14(月)に投稿いたします。

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