第90話 皆とのお別れ
窓から暖かな日差しが差し込み、温もりに包まれながらトイフェリンは目を覚ました。
「おはようございます」
「おはよう」
目を覚ますとヴァイゼはもう起きており、どうやらトイフェリンの寝顔を楽しんでいたようだ。
もう少しこの時間を堪能していたいところだが、そういう訳にはいかない。
アオスには、出来るだけ早く帰った方が良いだろうから。
朝食は昨日のように集まるのではなく、それぞれでとることになった。
準備を終え城門に出れば、皆が揃っている。
メーアから一番遠い場所に住んでいるトイフェリンとヴァイゼは、最初にメーアから出国していく。
「アルドリック殿下、ソフィア様、お二人の幸せを願っております」
「ありがとう。トイフェリン嬢もね」
「トイフェリン様としばらく会えなくなってしまうのが寂しいです…!!次会えた時はたくさんお話しさせてください!」
ソフィアは別れ惜しそうに、涙ながらトイフェリンと別れの言葉を交わした。
今回のことで二人の間に何か変化があったらしく、アルドがソフィアに向ける表情は好きな人を見る目だ。
二人はこの先、幸せな家庭を築くことが出来るだろう。
「ティーフ殿下、来て下さりありがとうございました」
「本当にあれから色々と大変だったね。何かあったらいつでも会いに来て良いからね、お嬢さん」
そう言ったティーフに、ヴァイゼは冷たい視線を送っている。
「冗談だよ。とにかくどんな時も手を貸すってことだよ」
「手を借りることはそうそう無いだろうな」
「ヴァイゼならそう言うと思った」
先ほどと違ってヴァイゼは笑い、ティーフもそのヴァイゼの表情に釣られて笑っていた。
そろそろ二人には仲が良いことを認めて欲しいと、トイフェリンはその様子を見ていて考えてしまう。
冗談も本音も言える関係は良い関係だし、もっと仲を深めて欲しいところだ。
「トイフェリン嬢には本当に迷惑をかけたよ。アオスに戻ったら忙しいかもしれないけど、ちゃんと休息は忘れないでね。やっと心置きなく休めるようになった分、たくさん休んで欲しい」
「お気遣いありがとうございます。けれど、ヘルヘーニル殿下も頑張り過ぎて体調を壊さないように、気をつけて過ごして下さいね」
「そうだね。僕が倒れたら本末転倒になっちゃうし、ちゃんと気をつけるよ」
皆と会えるのはアオスに戻って、仕事を片付け終わり落ち着いた頃になるだろう。
その時にはもう、冬の寒い時期真っ只中になるだろうか。
「ではまた皆様に会えるのを楽しみにしています」
お別れを終え、馬車に乗り込む。
また長い移動が始まるが、行く時よりも気がとても楽だ。
これも、全部終わったおかげだ。
馬車は進んでいき、もう後ろを振り返っても皆の姿は見えない。
別れの言葉を交わしている時はさほど感じていなかった寂しさが、今になって押し寄せてきた。
(大変だったけれど、皆様と関わってきたこの期間は本当に楽しかったです…)
トイフェリンは馬車に揺られながら、これまでのことを思い出し感傷に浸っていた。
読んで頂きありがとうございました。
ティーフはトイフェリンのことを『お嬢さん』と呼ぶのをとても気に入っています。
婚約パーティーで変装していた時に、身分を偽っていた為そう呼んだのですが、案外腑に落ちたようでずっと使っているのだとか。




