第88話 悪役令嬢ではなく聖女
トイフェリンはヘルヘーニルの傍へ行き、声を掛けようとしたところをヴァイゼに止められた。
「ヴァイ殿下?」
その行動に疑問に思い問い掛けるも、止められた理由に気づく。
ソフィアがヘルヘーニルの元へと走って向かって行ったのだ。
ヘルヘーニルの傍へ着くと、ソフィアも地面に膝をつけ目線を合わすようにして話し掛ける。
「ヘルヘーニル殿下の気持ちはとっても嬉しかったです。けれど、こんな風に誰かを傷つける行動をされたことを悲しく思います」
ヘルヘーニルは俯いたままだが、ちゃんと話には耳を傾けているようだった。
「昔のヘルヘーニル殿下は立派な皇太子になりたいと、一生懸命勉強されていたじゃないですか。その時の気持ちを思い出して下さい!」
ソフィアが話した昔の自分の話にハッとし、ヘルヘーニルは顔を上げソフィアを見つめる。
「そうだったね…。ソフィアとの約束も破ってしまった。僕はもう、立派な皇太子にはなれない」
そう言ったヘルヘーニルの声からは、落ち込んでいることが感じられた。
自らが仕出かしたことの為、自業自得だが反省しているということは、計画を進める気はもう無いのだろう。
「まだ立派な皇太子になれないと決まった訳ではございません。これからのヘルヘーニル殿下の行動次第で、皆様もついてきてくれると思います。皆様はヘルヘーニル殿下のことをとても大事に思っていらっしゃいますから」
トイフェリンの言葉に背後に居た騎士たちや、騒ぎが落ち着き様子を見に来たヘルヘーニルの侍従たちが、頷いたり、笑顔を向けたりと自分の気持ちを表していた。
「皆……。ごめんなさい。そしてありがとう。これからも僕についてきて欲しい」
周囲からは勿論ですと、賛同の声が晴れ渡った広い青空に大きく響いている。
ヘルヘーニルはソフィアの手を借りて立ち上がり、すぐに街の修復を始めるように命じた。
勿論、自分がしてしまったことを人に任せきりにはしたくないので、ヘルヘーニルも修復に取り掛かりたいが、その前にトイフェリンに言わなければならないことがある。
「トイフェリン嬢。君を僕の計画に利用して悪役に仕立て上げようとしたこと、命を危険に曝させたことに深くお詫びするよ。酷いことをしてるのに図々しいと思うかもしれないけど、僕が困った時は手助けして欲しい。これからは自分だけじゃなくて、皆と共にこの国を良くしていけるように」
ヘルヘーニルはトイフェリンの目を真っ直ぐ見て、自分の過ちと決意を言葉にして伝えた。
彼はもう、一人の令嬢に異常に執着している姿ではなく、国を背負う皇太子の姿へと戻っている。
「誰しも間違ってしまうことはあります。これからヘルヘーニル殿下が間違いを正して、国を良くしていけるように応援しています。勿論、困ったことがありましたら声を掛けて下さい。助けになれるよう尽くさせて頂きますから」
「ありがとう。君は悪役令嬢じゃなくて聖女だったんだね」
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