第84話 最終手段に勝るには
「……」
ヘルヘーニルは俯いたまま何も話さない。
この場にも沈黙が流れていた。
「もうこんな無駄なことは止めるんだな」
続く沈黙の中、最初に話始めたのはヴァイゼだ。
「お前の計画は失敗だ。聖女の気持ちもお前に向くことはないだろう」
「―そんなことない。僕の最終手段は残っている」
ヘルヘーニルの普段と違った低い声でそう言い放った後、彼の身体の周りから黒い霧のようなものが出てきている。
その霧は一瞬にして広がって行き、やがて空を覆うほどにまで及んだ。
空は黒く染まり、太陽も隠れてしまい辺りは少し視界が悪くなるくらいに暗い。
「これは何でしょうか?!」
「かつて禁じられた禁忌の魔法だ」
「そんな?!このままではメーアだけでなく、他国にまで影響が出てしまいます!国民の皆様も危険に曝されて―」
「もうこんな国何て必要ない。この国がめちゃくちゃになっても、僕は彼女さえ居ればそれでいいんだよ!!」
トイフェリンの言葉を遮り、ヘルヘーニルが口を開いた。
その言葉と同時に、彼は禁忌の魔法を使ったことで自我を失い、無差別に攻撃し始める。
「ここは一旦引こう」
「ですが…!」
「安全な場所に移動して作戦を立てるべきだから。ヴァイだけでどうにか出来るものじゃない」
「分かりました」
頷いたトイフェリンはアクストの後ろをついて行く、それに続きヴァイゼも周りを警戒しながら後を追ってきた。
とりあえず、ヘルヘーニルからは見えない物陰へと身を潜め話し合う。
「人員を集めたいけど他にも魔法が使える人が居るのか?ヘルヘーニルの近衛騎士とかはこっちの肩を持ってはくれなさそうなんだよなー」
「そこまでの忠誠心はないだろう。あいつの政治のやり方には、不満を持っている者も多かったからな」
「ソフィア様との為に動いていらしたからですね…」
まだ被害は出ていないが、ヘルヘーニルの脅威が低いうちに何か案を考えなければならない。
アオスから連れて来ていた騎士たちと、皇宮の近くに居るエーデルの騎士たちを連れてきても、勝機があるかは分からない。
「例え魔法を使える者が他に居ても、数が足りないな。昔ほど魔法の鍛錬を積んでいないだろうからな」
「ヘルヘーニルと同等、またはそれ以上に魔法が強い人が居ればいいんだけど」
三人で色々考えてみるが、なかなか案が浮かばない。
少し焦りの気持ちのせいか、普段より落ち着いて物事を考えていられなさそうだ。
「ソフィア様が本当は聖女ではないのでしたら、本物の聖女様はどこかにいらっしゃるのでしょうか」
「アオスに聖女信仰の文化が無いからそこらへんの話はよく分からないけど、居てもおかしくはないかもね」
アクストの言葉を聞いて、エーデルの神殿のことや神書で読んだ内容を思い返してみる。
「聖女は神様のご加護を与えられた存在なんです」
「加護は与えられたら分かるものか?」
「それは実際に見たことが無いので分かりませんが、生まれた人たちは必ず神殿を訪ね『神様のご加護がありますように』と、お祈りをするのです」
「誰が本当に加護を受けているかも分からない上に、受けた者全員に可能性があるということか」
読んで頂きありがとうございました!




