第9話 皇太子に婚約破棄を持ち掛ける
皇太子『アルドリック・グラナート』
透き通った金髪の髪に、国の象徴である赤色の目は吸い込まれそうなほどに綺麗だ。
「フェリン、お待たせ。待たせてしまって悪いね」
声は普通の男性より少し高いが、やはり声も綺麗である。物語でよくあるような典型的な理想の王子だろう。
「気にしないで下さい。私が急に来てしまっただけなので…」
「それでも婚約者である君を待たせるわけにはいかないよ」
婚約者と言われトイフェリンは罪悪感を覚える。
なんせここには皇太子との『婚約』について話に来たのだから。
「話があるとのことだけど、どうしたんだい?」
早速話の本題に入ったことで、緊張で焦りが出て声が震えてしまう。
「えっと…、婚約破棄を考えて頂きたいと思いここに来たんです」
時が止まったかのように彼の表情は固まり、しばらくして笑顔が消える。
「それは急だね。何で婚約破棄という言葉が出てきたのかな?」
皇太子の表情と言葉からは、怒りと圧を感じる。
トイフェリンは皇太子のその赤色の目に見つめられ、少し怖気づいて声の震えが収まらない。
「私たちは政略的な婚約ですし、殿下に他に好きな方が出来たら申し訳ないと思い…」
「他に好きな人なんていないし、これから先も出来たりしない」
素早く返答が返ってきた。真剣な表情でこちらを見ているが、明日聖女に会ってその考えはきっと改められる。
そう思ってしまっているトイフェリンは、その言葉を信用することが出来なかった。
「それに私よりも殿下に相応しい方がいらっしゃると思います…!」
正確には”現れる”だが、今は聖女の名を出す訳にはいかない。
皇太子の表情は先ほどからずっと曇っている。それに何かを考えているのか、何も言わない。
沈黙が続く会話にトイフェリンは不安が増していく。
聖女が現れてからもっと正式に婚約破棄を申し込むつもりだ。
とりあえず今は、破棄したい意思があることをしっかり示しておかなければ。
「僕は君と婚約破棄をしたくない。だが君がそう言うなら少しは視野に入れておくよ」
やはりまだまともに取り合ってはくれない。でも、少しでも視野に入れてくれたのは良かった。
今日はここまでにしないと明日の建国祭に支障が出る。
何故なら建国祭では婚約者の為、ずっと皇太子の傍に居なければならないからだ。
これ以上この話をしては二人でいる時に、気まずい空気になってしまう。
「少しでも考えて頂きありがとうございます。それでは失礼します」
そう言って席を立ち、執務室を出た。
少し急ぎ足で自室に戻ったトイフェリンは、深呼吸をする。
(とても緊張した……)
自室に一人になったことでようやく緊張から解放され落ち着くことができた。
読んで頂きありがとうございました!
やっと皇太子の登場です!
実は皇太子の名前が一番決めるのに時間がかかりました。
今回の話を書くときに決まったので、ここまでの話を書いている時には決まっていなかったということです。
ちなみに一番最初に名前が決まったのはリナです^^