第83話 踏み外してしまった道
始まりと共に、ヘルヘーニルは早速魔法を放ってきた。
ヘルヘーニルは剣などは持っておらず、魔法だけで挑むつもりらしい。
ヴァイゼは攻撃を剣で返しながら、徐々にヘルヘーニルとの間を詰めていく。
静かな訓練場には魔法と剣がぶつかり合う音だけが響き、見ている方も緊張感が増していた。
どちらも落ち着いた表情をしていて、まだ互角といったところだ。
お互いに攻撃を跳ね返し合っているだけ。
(本当に大丈夫でしょうか…)
二人の気迫と素早さに、トイフェリンはついていけない。
そんな接戦が続く中、変化が出始める。
ヴァイゼが少し汗をかき始めて来たのだ。
ヘルヘーニルはまだ汗を一つもかいていない状況。
やはり遠距離から攻撃が出来て、体力の消耗が少ない方が有利なのか。
「ちょっと疲れてきてるんじゃなーい?」
「…汗をかいているだけで疲れたように見えるのか。お前の目は節穴だな」
「ふん。じゃあ本気出しちゃうもんね」
挑発を更に挑発したことで、ヘルヘーニルは今までと違った魔法を使ってくる。
先ほどまで、風のように空中を切り裂くようなものだったのが、そこに水を交えてきた。
それも、トイフェリンに向かって。
(攻撃がこちらに…!)
トイフェリンは咄嗟のことに動けず、その場でただ目を瞑った。
しかし、その攻撃はトイフェリンに当たることはなく、目を恐る恐る開けて見えたのは氷の壁。
「え…なんで?」
トイフェリンよりも先にそのことに気づいたヘルヘーニルは、声を震わせ驚いていた。
「フェリンを狙うとは卑怯だな。俺とお前の戦いなんだろう」
「なんで…なんで!?何で魔法が使えるんだ!?」
ヘルヘーニルは酷く動揺している。
(この魔法はヴァイ殿下が)
「魔法使いがメーアに多かっただけで、他の国に居ない訳ではないぞ」
「でも今はほとんど残っていないはずだ!」
「ほとんどとは言ってもお前も使えている。そんなに珍しいことでもない。それに、俺の母上はメーア出身だからな、俺が使えてもおかしくない」
(それは知らなかった…)
今に及んで初めて聞く情報が多い。
ヴァイゼが魔法を使えたことにも驚きだし、義母様がメーア出身だったことも。
公にされていなかった機密の情報。もしかしたら、皇宮の資料室にはそういったことの書かれた資料は多く存在するかもしれない。
「この力を使うつもりはなかったんだがな」
「はは…そっかぁ……」
ヘルヘーニルは俯いていて顔が良く見えない。
「僕はこの為に必死に公務にも魔法にも励んで!愛する彼女をどうやったら手に入れられるか悩んで!やっと上手くいくと思ったのに!お前は僕の欲しいものを簡単に手に入れるのか!!」
顔を上げヴァイゼを鋭く睨むヘルヘーニルの表情は、憎しみで満ち溢れている。
トイフェリンはその言葉を聞き流すことは出来なかった。
「ヴァイ殿下の今は、これまでの努力によるもので苦労せずに手に入れたものではありません。勿論ヘルヘーニル殿下の今までも。昔、皇宮で父親の後を追いながら、一生懸命学ばれていらっしゃった姿を拝見したのを覚えています」
印象に残っていた過去の姿を思い浮かべながら、諭すように話していく。
「ヘルヘーニル殿下は道を踏み外してしまったのです。正しい道ではない方へ」
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