第50話 エッセンの皇太子
トイフェリンは食事を終えたところで。
「ヴァイ殿下、お花を摘みに行って来ますね」
「ああ。迷子にならないようにな」
「だ、大丈夫です!…多分」
「遅かったら迎えに行く」
「ありがとうございます。では」
ヴァイゼにお辞儀をして、トイフェリンは化粧室に向かった。
そして案の定、帰りに迷子になってしまった。
(また迷ってしまった…)
近くに人の気配もなく、誰かに道を尋ねることも出来ない。
どうやら、出席者たちが利用している化粧室とは別の遠い化粧室に来てしまっていたようだ。
(これじゃあヴァイ殿下は迎えに来れないのでは?!)
どうしようかと、慌てふためいていると誰かに話しかけられた。
「どうしたんだい?お嬢さん」
声を聞いて振り返ると、そこには黒髪で橙色の目をした男性が立っていた。
(綺麗な橙色の目…。でも髪は黒ですし皇太子殿下は出席されないとヴァイ殿下が…)
トイフェリンは男性の顔を不思議そうに見つめていた。
「俺の顔に何かついてる?」
「いえ!ごめんなさい!目の色がエッセンの皇太子殿下に似ているような気がしたのですが、私の気のせいだったようです」
「ん?気のせいじゃないよ。髪は変装で被っているだけで、俺はエッセンの皇太子『ポズィティーフ・ゲミューゼ』だよ。ティーフって呼んでね」
そう言いながら頭の被り物を取り、本来の茶髪が露わになった。
ティーフは髪が少し長く、後ろで一つに纏めている。
「ええ!?」
トイフェリンは驚いてつい大きな声を上げてしまい、ハッとして口を手で押さえる。
「どうしてこちらに?」
「それは勿論、君を見る為だよ。ヴァイゼが婚約したって聞いて相手がどんな女の子かなって」
「私ですか?!でも変装する必要はあったのですか?」
「そりゃ皇太子として出席して君に近づいたら、ヴァイゼが黙ってないだろうからね」
「そうですか…?」
上手く状況を理解出来ないが、ティーフに会えたのは好都合だ。
竜巻のことも伝えられるし、会場への戻り方も知っているかもしれない。
「私もティーフ殿下にお会いしたかったのです」
「それは嬉しいな」
「近々エッセンで竜巻が発生するかもしれないのです」
「その根拠は?」
ついさっきまでトイフェリンに笑顔を向けていたティーフだったが、国に関わる話になり急に真面目な顔になり言葉を返して来た。
「その、根拠は詳しくお話しすることが難しいのですが…」
「へえー、まあ頭には入れておくよ」
(やっぱり信じてもらえないですよね…)
ヴァイゼが色々と考えて動いてくれているだろうからあまり心配は不要かもしれないが、出来ることはしておきたい。
「最後にここからどうすれば会場に戻れるでしょうか?」
「それで困ってたんだね。ここから右に二回曲がって左に一回曲がったら、後は真っ直ぐだよ」
「右に二回、左に一回ですね。ありがとうございます!」
「俺は一人になった君についてきたけど、何でここまで来れたの?」
「それは分かりません…」
トイフェリンは自分の不甲斐なさに苦笑いを浮かべていた。
「では、ありがとうございました」
ティーフにお辞儀をして背を向け、会場に戻ろうとすると再度呼び止められ振り返る。
「待って!俺に会ったことは内緒にね?」
「…わかりました」
時間が結構経っている為、ヴァイゼが探しているかもしれないと思い急いで戻る。
そんなトイフェリンの後ろ姿をティーフは眺めながら、手を振っていた。
(ティーフ殿下ごめんなさい。あなたの国の為にも、会って話したことはヴァイ殿下には伝えなければいけません…)
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