第49話 ヴァイゼの杞憂
二人に会場全体の視線が向けられた。
会場真ん中の道をゆっくりと歩き進んで行き、振り返る。
「今宵は俺たちの婚約パーティーに来てくれたことに感謝する。未来の皇太子妃となるトイフェリン・アメテュストに盛大な拍手を」
ヴァイゼの言葉により会場に大きな拍手が鳴り響いていた。
「ありがとうございます。これからはエーデルシュタインの侯爵令嬢としてではなく、アオスゲツァイヒネトの皇太子妃になる者としてヴァイ殿下と共にこの国を支えていきたいと思います」
おめでとうございますという歓声の声が会場のあちこちから聞こえてくる。
挨拶を終えたら貴族たち一人一人からのお祝いの言葉を聞く時間だ。
長い時間を掛けて全ての言葉を聞き終わり、ようやく少しは休めるかと思った所でヴァイゼが呼び止められた。
「少し時間を頂いても宜しいですか?」
ヴァイゼはトイフェリンが心配な様で離れたくなさそうにしているが、後から聞いた話によるとヴァイゼを呼び止めたのはエッセンの公爵だったようで、竜巻のこともある為どうしても話さなければいけなかった。
「一人で大丈夫か?」
「はい。この近くでお食事でもして待ってますね」
「分かった。出来る限り早く戻る」
「いってらっしゃい」
トイフェリンは手を振って、その場を離れていくヴァイゼを見送った。
(さて、何を食べようかな?)
皇宮の食事ともなれば、とても豪華で美味しそうなものがたくさん並んでいる。
テーブルに向かおうとするトイフェリンの前に、令嬢たちが立ち塞がった。
「どうしてあなたみたいな人が殿下の婚約者なんですの?たかが隣国の侯爵令嬢の分際で殿下の横に並ぶなんて、公爵令嬢である私の方が絶対に殿下に相応しいですのに」
令嬢たちからは嫉妬の籠ったキツイ目つきで睨まれた。
「私を侮辱するということは、選んで下さったヴァイ殿下や認めて下さった両陛下を侮辱するのと同じです。それでもあなた方は同じようなことが言えますか?」
全く怯むことなく言い返すトイフェリンに、令嬢たちは何も言えなくなり黙って睨み続けるだけだった。
トイフェリンは最初からこうなることはある程度予想していたのだ。ヴァイゼが社交を避けていたのは人が多いのが苦手なのと、令嬢たちが婚約目的で近づいてくるのが嫌だったからだ。
見た目も完璧なヴァイゼの婚約者になりたい人も多く、社交界に出席しないヴァイゼの心を誰が射止められるか令嬢たちは競い合い争っていただろう。
そんな中、隣国の侯爵令嬢が婚約者の座を持っていったものだから、令嬢たちからの批判は受けることなど分かりきっている。
何事もなかったかのように令嬢たちを避け、トイフェリンはテーブルに向かい食事を始めた。
(美味しい…!)
あまりの美味しさに、もうさっきのことなんて忘れてしまっていた。
食事を楽しんでいると、ヴァイゼが戻って来た。
「お帰りなさい」
「ああ。一人で大丈夫だったか?」
「はい。何も問題ありませんでした」
「令嬢たちが悔しそうにフェリンを見ているな。戻って来る時に他の人が話していたのを聞いたが、俺の心配は杞憂だったな」
そう言いながらヴァイゼは身に着けていた手袋を外し、トイフェリンの口に付いたクリームを手で拭い、それを自分の口へと運んだ。
「…甘いな」
「わわわ…!」
突然のことに顔を赤く染め、動揺が隠せない。
「どうした?」
「そ、そんなにサラッと…!」
ヴァイゼはからかうような笑みを浮かべ、トイフェリンの反応を楽しんでいた。
遠くからそれを見ていた令嬢たちの、嫉妬と悔恨がより一層強まっていた。
読んで頂きありがとうございました!
トイフェリンは相手がどんな人であろうと、人ではなく方と呼ぶように平等で丁寧に接します^^




