第37話 ヴァイゼが見せたかったもの
出発したのは夕方だったのが、ヴァイゼの目的の場所に着く頃にはすっかり夜になっていた。
「ここから先は馬車では行けない。降りよう」
「歩くのですね。わかりました」
再びヴァイゼの手を取り降りる。
周りはたくさんの木が生い茂っていて森のようだった。街からも随分離れているだろう。
道は綺麗に整備されているが、坂になっている為馬車で走るのは難しいようだ。
(どこへ行くのか分からなかったから、リナが身軽なドレスを選んでくれてる。凄く歩きやすい)
数分歩き続けて高い所まで来ると開けた所に出てきた。柵のある方へ進んでみると、そこにはアオスを一望出来る景色が見えた。
「わあ…!!凄く綺麗ですね!!」
「ここは俺のお気に入りの場所だ。心を落ち着かせたい時や一人になりたい時にここに来る」
「そのような場所に私が来ても良かったのですか?」
「お前が喜ぶと思って、見せたいと思った」
「どうしてそこまで私の事を…」
ずっと不思議に思っていた。どうして自分の事を信用してくれて、優しくしてくれて、考えてくれて、助けてくれるのか。
ヴァイゼが聖女を好きになる可能性が全然あったから、この気持ちは心に閉じ込めたままの方がいいのかもしれないと考えたこともあったのに。
ヴァイゼのお気に入りの場所まで教えてもらってしまっては、期待してしまう。
彼が好きになるのは聖女ではないかもしれないと。
「どうしてだろうな。図書館でお前に会ってから、ずっと気になって仕方がなかった。会う度にもっと一緒に居たいと思ったり、別れた後に寂しかったり。お前が襲われていた時は、本当に気が気じゃなかった」
「それって…」
ヴァイゼは跪き、トイフェリンの手を取る。
「俺はトイフェリンことが好きだ。俺と婚約してくれないか?」
「…!!」
トイフェリンの鼓動が早くなっていく。顔も赤く火照っていることだろう。
まさか求婚してくれるとは、思ってもいなかった。
トイフェリンは一度婚約を破棄している身の為、この先誰とも婚約を結んで結婚することなど無いと思っていた。
アオスに住んでいる時に縁談の手紙も届いたことが無かったからだ。エーデルの実家には届いているかもしれないが、それはシュヴェアが断っていることだろう。
「私もヴァイゼ殿下のことが好きです。ですが…婚約は少し考えさせて頂いてもよろしいでしょうか?」
「あぁ、構わない。返事ならいくらでも待とう」
「ありがとうございます」
ヴァイゼのことが好き。それでも、物語を気にしてすぐに答えは出せなかった。
今回は物語とは違う方向へ進みトイフェリンにとって良い方向だったが、この先の物語にヴァイゼを巻き込んでしまうかもしれない。
自分の今後への不安はまだ拭い切れなかった。
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