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「上の階に引っ越して来たんです?」
久しぶりに宮下と話しているのだとやっと実感が湧いてきた。
彼女のこの独特な敬語と訛りは人に親近感をわかせる。
「あぁ、転職先がここら辺に決まったから」
「やりましたね!何のお仕事なんです?」
そうくると思った。そらそうだ仕事を辞めて実家に帰った知人が何処に転職したのか誰だって気になる。
だが彼女に転職先を言うのは少しの恥ずかしさと疚しさがあった。
「メガネ屋…」
「メガネ屋さん?!!!なにそれ羨ましい!!最高じゃないですか!!」
急激に宮下のテンションが上がったのが分かった。
いつもよりも少し早口で切れ長の目を大きく見開いていた。
何を隠そう宮下は大のメガネ男子好きなのだ。
好みの男の条件を聞くと1番目にメガネを挙げるのが宮下だ。
求人サイトでメガネ屋を見つけた時、宮下のこのキラキラした目を思い出してつい応募してしまったのだ。
「なんでメガネ屋さんにしたんです?」
「まあ、なんとなくな…」
応募した理由が宮下のその笑顔を思い出したからなんて恥ずかしくて言えたもんじゃない。
「そっかー お仕事中はメガネなんですか?いつもコンタクトですけど」
「ああ、ストックのコンタクト使い終わったら仕事以外もメガネにしようかと思ってる」
また宮下がとびっきりの笑顔になった。
「それがいいです!長身細身でメガネとか最高じゃないですか!!
今度宮下にも見せてくださいね」
そうか今度があるのか。
またこれから宮下の笑顔が見られると思うと心がポカポカと温まっていく様だった。