前進開始
つなぎのような緑色の搭乗服に着替え、機体の操作や取り扱いについての簡単な説明と教育を受けた俺はADX-02のコックピットの前に立っていた。
後頭部の真下に位置する首の付け根にぽっかりと空いた穴。コックピット内を取り囲むディスプレイに映し出された周囲の映像に照らされ、ぼんやりと浮かび上がるシート。
この光景だけでご飯三杯は行ける。
「じゃあ、乗って。」
「落ちるなよ。」
「わかってるって・・・」
淡々とした串田と茶化す親父に背後から促されながら、俺はキャットウォークからコックピットの中へ慎重に潜り込み、少し窮屈なホールド性の高そうなシートに腰を下ろした。
「搭乗者照会。」
「うを!?」
突然、機械的な女性の声がコックピット内に響き身体をビクつかせる。
「認証しました。お疲れ様です。朝倉瞬。」
「あ、ああ・・・」
「無事認証されたようだね。それじゃあ、ハッチを閉めてベルトの装着。」
機体に搭載されたAIに名前を呼ばれ、反応に困っている俺の耳に串田からの通信が神の声のように響く。
「あ、はい。」
目の前のタッチパネルでハッチの閉鎖を操作してコックピットを密閉し、四点式シートベルトで身体を固定する。
「固定が終わったら格納庫の前にいるトレーラーをロックして、収容シークエンスを実行。」
指示の通りにパネル操作でカーソルを格納庫前に横付けされたトレーラーに重ね、タップをする。すると、トレーラーが緑色の枠に囲まれ右下に距離が表示される。
「収容シークエンス実行。」
そして、声に出してAIに指示を出す。
「了解。収容シークエンス、実施します。」
AIが復唱すると機体が動き出し、トレーラーに向けて一歩一歩前進を開始した。
「おお・・・」
この時点で俺の心拍数はこれまでにないほどぶち上がった。
だが、後に別な意味での心拍数上昇を経験することになるとは、この時の俺に知る由もなかった。
格納庫を一歩出た瞬間、けたたましい警報音がコックピットに響く。
「敵の接近を確認。実行中の行動を一時中断します。」
AIがそう告げ、前方の誘導員も停止の合図を出している。
「は?・・・え?」
「瞬!」
突然のことに困惑する俺の耳に親父の声が飛び込む。
「・・・親父、どういうこと?」
「ヴラグの輸送機が防衛ラインを突破して一部がこの基地に向かっている。」
落ち着きを取り戻した俺に親父は淡々と説明した。
「それってマズいんじゃ・・・?」
「大丈夫だ。迎撃部隊が全力で対処してる。」
不安をかき消すような力強さで親父が言う。
「じゃあ、俺はこのまま続けても?」
「いや、警備隊が出払ってて人手が足りん。武装して待機だ。・・・よかったな。新型により長く乗れるぞ。」
「戦闘になったらどうすんだよ・・・」
親父の冗談に安心感を覚えながらも俺は本音を漏す。
「最悪そうなったら父さん達が全力でサポートする。お前も本気でヤバいと思ったら迷わず脱出しろ。」
「わかった。」
親父の言葉に俺は覚悟を決めた。
「よし。では、指揮を警備隊長に引き継ぐ。事後は警備隊長の指示に従え。」
「了解!」
軍人口調に変わった親父に俺は気合の入った返事をした。