搭乗前準備
駐屯地の最高責任者である親父に連れられ足を踏み入れた格納庫。その奥にはADX-02と呼ばれる白い新型機甲歩兵が整備員達による点検を受けていた。
「気をつけェ!」
こちらの存在に気づいた整備員の一人がそう叫ぶと、全員がこちらを向き気をつけをする。
「休め!」
そして、親父の号令で再び全員が作業に戻る。
ここに来ると普段、家で母親の尻に敷かれっぱなしの親父とはあまりに別人過ぎて毎回驚かされる。
「お疲れ様です。司令。」
作業着を着た親父よりも少し若い中年の男が歩み寄る。
「ああ串田君、すまないね。」
「いえ、彼ですね?」
串田と呼ばれた男が俺を見る。
「開発責任者の串田君だ。」
親父が串田の横に立ち紹介をした。
「朝倉瞬です。父がいつもお世話になってます。」
そう自己紹介すると俺は深々と頭を下げた。
「しっかりした息子さんですね。」
「いやいや、猫被ってるだけだから。」
褒める串田を親父は意地の悪い笑顔であしらう。
「いえいえ、うちの娘にも見習って欲しいもんですよ。」
お決まりの大人トークが展開される。
「じゃあ、瞬君。早速だけどお願いするよ。」
一通りの会話を終えた串田はこちらに向き直りそう告げた。
「はい。お願いします。」
「よし、まずはそこの更衣室でこれに着替えてくれ。」
串田は格納庫内の側面にある扉を示すと、丁寧に折りたたまれた緑色の搭乗服を差し出した。
「着替え終わりました。」
つなぎのような搭乗服に着替えた俺は更衣室を出ると、部屋の前で待っていた親父と串田に報告する。
「うん、いいね。じゃあ、次はこれを被って。」
俺は串田から深緑色のヘッドギアを受け取り装着した。
「おー、カッコいいじゃないか。スマホ出せ。取ってやるぞ。」
親父は笑いながら茶化すが、俺は普通に胸ポケットからスマホを取り出した。
「司令、撮影はマズいです。」
スマホが親父の手に渡る直前で串田が止めに入る。
「おっと、あぶねぇあぶねぇ・・・悪いな瞬。軍事機密だ。」
「お、おう・・・」
この親父、ホント大丈夫か?
「念の為、スマホはロッカーに入れておいてくれ。」