機甲歩兵
俺は朝倉瞬。いたって普通の十六歳だ。
今現在、俺は軍の保有する連絡用の乗用車の後部座席に乗っている。
向かう先は地元から大分離れた場所にある国防陸軍新高駐屯地。
なぜ平凡な高校生である俺がそんな場所に向かっているか・・・それは三日前に駐屯地の最高責任者を務める親父から見学に来ないかと誘いがあったからだ。
しかし、今日は少し妙だ。見学自体は今まで何度もさせてもらったが、通常なら移動は親父の車か公共交通機関である。それにここ最近、ヴラグとの戦闘が激化しているというニュースも耳にした。後方職種とはいえ親父も相当忙しいはず・・・
ヴラグとは、ある日突然世界各地に出現し、人類に対して戦争を仕掛けた謎の敵だ。ヴラグとの戦いは一進一退のままもう五十年も続いている。
「おお、瞬。よく来た。」
司令室に入ると待っていた親父は力強い笑顔で俺を出迎えた。
「お邪魔します。・・・なあ親父、送迎に軍の車を使って大丈夫なの?」
親父に促され入り口わきの応接セットに腰を下ろしながら聞く。
「ああ、それなら問題ない。・・・早速で悪いんだが、これにサインしてくれ。」
そう言って親父は一枚の書類をテーブルに置いた。
そこには形式ばった文章がズラズラと並んでいるが要約すると、この施設で見たこと聞いたことは絶対に外部に漏らさないことを誓います。というようなことが書かれている。
「一体何見せる気?」
書類を片手に俺は怪訝な顔で親父を見た。
「新型の機甲歩兵だ。ちょっと事情があってな・・・今日は特別に操縦させてやる。」
「マジ!?」
とんでもないサプライズに俺は驚き目を輝かせた。
因みに機甲歩兵とはヴラグへの対抗手段として開発された人型兵器だ。つまり、男の子なら誰もが憧れる搭乗可能なロボットである。
誓約書にサインをした俺は司令官専用のセダンに親父とともに乗り込み、広大な施設の奥に建つ大型格納庫に移動した。
移動間になぜ俺のような民間人が新型機甲歩兵の操縦をさせてもらえるのかを聞いたところ、答えは非常に間抜けなものであった。
その答えとは、搭乗員の認証システムの問題だ。この一言で済ませば聞こえは良いのだが、実態はテスト段階で何を思ったのか認証システムに俺の情報を登録した上、何らかの理由で書き換えが出来なくなってしまったらしい。
そして、認証システムの書き換えも含めた調整を別施設で行うため、移動用トレーラーにその機甲歩兵を載せて欲しいとのことだ。
「おお・・・すげぇ・・・」
薄暗い格納庫に一歩足を踏み入れた俺は声を漏らした。
目の前には身長約十メートルの機械で出来た細身の白い巨人が立っており、その周辺では作業着に身を包んだ整備員達が黙々と作業をしている。
「我が軍が開発した新型機甲歩兵、ADX-02だ。」