第四話 「ハウス内の三つのストーン+1」前編
今日も仕事が終わった後にカーリングホールへとやってくる。
小学生のカーリング教室。
コーチの資格を持つ僕の日課。
元々小学校教師になりたかったが、今どき『第一種小学校教員免許』一つでは教師になどなれない。
その夢をまだ追いかけている、という訳ではないが子供達の相手は楽しいものだった。
今日もカーリング教室が終わり子供達は親と帰っていく。
そんな中、一人残っている女の子がいた。
小学校五年生の星野 望
いつも母親が遅い為、最後まで残っている子だ。
その手にはかつて母親が使っていたという、古ぼけたカーリングブラシが握られている。
「望ちゃん、今日も一緒に待っていようか?」
「三ツ石コーチ…。すみません」
この子と二階のラウンジで一緒に母親を待つのも僕の日課。
「お待たせしました。望ちゃん、ごめんね。三ツ石コーチ。いつもいつもありがとうございます」
その母親の星野 美月さんが迎えに来る。
彼女の母親はなんと言うか。
他人様のモノであると分かっていても。
セーターの下に包まれた豊満な身体、その昔カーリングをしていたと言う年齢を感じさせないプロポーション。
つまり会うのが楽しみな程、彼女は魅力的だった。
「うち、お父さん亡くなってるから、母と二人暮らしですよ」
そんな僕を見て、望ちゃんがボソリと呟く。
…知らなかったな。
お父さん亡くなってるんだ…。
「望ちゃんクリスマス何が欲しいの?新しいカーリングブラシ買おうか」
「私、お母さんが使っていたこのブラシが良い」
そんな会話をしながら、二人は帰っていった。
数日後。
僕は仕事帰りの晩、上司達に誘われて飲みに連れて行かれる。
ただの飲みではなく、女性の接客が伴う店だ。
女性経験が無い僕にとって当然こういうお店は初めてだった。
暗い店内でやたらと胸元を強調した女性たちが現れる。
「ノゾミです。よろしくお願いします…」
深々と頭を下げた女性。
お辞儀した瞬間、胸元が露わになり、僕はどぎまぎしてしまう。
その“ノゾミ”と名乗った女性が隣に座り、「あっ」と小さな声を上げた。
そして僕も。
『美月…さん!?』
化粧が普段より濃いし、スカートは長いが太ももまで大きくスリットが入っている。
そして髪をアップにしてうなじを出し、全身から色香を振り撒いている。
その豊満な胸元は惜しげもなく露わになり、その谷間にホクロを見付けた僕はさらに赤面をする。
けれどもそれは紛れもなく、星野 望の母親、美月さんだった。