第三話 「遅すぎた、ウェイトジャッジ」
「追分!ウェイトどうなの?」
「ない、と思う…いやあるな!?8か、9だ」
「ジャッジ、遅い!」
いつものサークル風景。
追分とMDのペア組んでもう二年か…。
けど、ウェイトジャッジが遅い。
ホント、間違っても良いからもっと自信持って言ってほしい。
「あなたね、いつになったらジャッジ慣れるのよ!?」
「悪い、長倉」
「聞き飽きたわ!こっちからじゃ分からないんだから、あなたが判断してよね!?」
…違う。
言い過ぎ。
もっと優しく接したい。
…そう思ってる。
好きな男に素直になれないなんて、小学生か。
自分でも嫌になる。
でも。
私達は二年間、一緒にカーリングをしてきた。
お互いの癖も分かってる。
脈はある。
けど、好きだと言われたい。
自分から告白するのは柄じゃない。
カーリング練習が終わって。
カーリング場の駐車場。
追分が女の子と一緒にいた。
同じカーリングサークルの子。
二人は何事か話し、少し周りを気にしてから…。
キスを交わした。
胸が痛むってこういう事だったんだ。
まさに音にしてみれば“ズキリ”だろう。
いつから?
付き合っている娘がいるなんて知らなかった。
二人はそっと唇を離し見つめ合う。
その姿はとても初々しく見えた。
傍から見ても二人はお似合いで。
私にはとても見ていられない。
私はくるりと二人に背を向けると反対方向に歩き出す。
大丈夫。
ダメージは大きくはない。
明日、軽く話をすれば良い。
「カノジョいるんだ?知らなかったわ。ジャッジの遅い追分にしては手が早いわね」
…なんて言いながら。
でも。
でも、さ。
もし、キスを交わしているのが私だったら?
見つめ合っているのが私だったら?
そんな事をとりとめもなく考えてしまう。
その想像は先程とは比べものにならない程の胸の痛みを伴い、私は思わず足を止める。
振り返ったら二人はまだ見つめ合っているだろうか?
いっそ喚き散らしながら二人の間に入ってやろうか。
それでも行動に移さなかったのは、これ以上傷付いたら私が私を保っていられそうにないから。
結局散々追分にジャッジが遅いと文句言いながら、私が一番遅かったのだ。
自分の気持ちに対してYesもNoもジャッジしなかった私は敗北する事すら許されず、無効試合を突き付けられた。
それが失恋より厄介な事であると気付いたとき、私は堪えきれず一人泣き出したのだった。