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〇ロポーズ大作戦 

作者: 先端がP

彼女の言葉には何度救われただろう。


「一人なの? 私と遊ぼ!」


 小さな手を差し伸べてくる彼女。


「これあげる」


 二つあった飴玉の一つを僕に渡してくれる彼女。


「いつか、大きくなったら結婚しよう」

 

 将来を約束してくれた彼女。

 それ以外の彼女の一挙一動を今でも鮮明に覚えている。

 時間が過ぎ去ってもそれは変わらない。僕にとっての一番は彼女だ。


 僕は法令速度ぎりぎりで車を走らせる。時間はないのだ。役所でもらった紙と自分の印鑑、自らを証明するものをもち目的地へと向かう。

 彼女は涙ながらに言っていた。もう僕とは会えないと。

 

「でも、僕はまだ君に何も伝えられていない」

 

 思っているものが言葉になる。自分が焦っていることも分かる。これが間違っていることだということも分かる。

 恋は盲目。馬鹿にしていた言葉が脳裏をよぎる。赤信号が僕を見下ろす。

 

 目的の場所についた。建物の周りに人の姿はない。間違いない式はもう始まっている。

 着なれないスーツを乱し、役所でもらった紙を片手に走る。

 扉を開くとそこには知らない女性がいた。驚いた表情で何かを言っているが、僕は気にせず、声のする方へと走る。

 

 今日は彼女の大事な日。それは知っている。全てをぶち壊してしまうかもしれないが、僕は言わなければ一生後悔してしまうだろう。

 僕は遂に目的の場所、大勢の人の気配のする扉へとたどり着いた。先ほどの女性が追ってきているので心の準備をする時間もない。僕は扉を開く。

 開いた瞬間、全ての視線は僕に集まる。ほんの少しだけ時間が止まった気がした。一番遠いところに彼女はいた。

 時間は動き出す。悲鳴や驚きいろいろなものが入り混じった音、だが、僕にとっては関係のない話だ。

 主役の彼女の元へと行く。

 彼女の隣に男がいた。何かを言っているようだが、関係のない話だ。

 彼女と僕の目が合う。

 驚いたような悲しそうな表情で僕を見る。そんな悲しそうな表情をしないでおくれ。

 僕は用意していた紙を彼女に突き出す。


「僕と結婚してくれ」

 

 場はまた沈黙と化した。いや、僕がそう思っただけなのかもしれない。彼女は手で顔を覆う。

 泣いて喜んでくれているのか照れ隠しをしているのか分からない。彼女の手に触れようとすると急に僕の背中に強い衝撃が走った。その痛みを理解する前に人が二人ほど僕に乗っかり、身動きが取れなくなる。

 邪魔をするな。まだ彼女の返答を聞けていないじゃないか!突っ伏した状態で彼女の方を見あげる。


「なんで……なんで」

 

 彼女はそう言いながら泣いていた。そこに喜びの感情は一切なかった。


「結婚しようって言ったじゃないか?」

 

 僕がそういうと彼女は泣きながら言う。


「……やだ」


 その一言で僕の何が終わった。先ほどまで聞こえないものが聞こえてくる。

 先ほど僕を追っていた女性が携帯電話で誰かに通話しているのが分かる。


「すみません。不審者が入ってきて……ええ、ナナホシ幼稚園です。……あ、はい、取り抑えています」


 その後、僕は為すすべなく駆け付けた警察に捕まった。

 ただ僕は好きな人に好きだと一緒になろうと伝えただけなのに。

 最後に視界に映ったのは、愛した彼女の名前とお別れ会の文字だった。


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