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魔法の紅茶専門店  作者: ミイ
92/139

092.由来



庭いじりをしていたエレンは、久方ぶりに自分の名を呼ぶ必死な声が聞こえた。あんな声はオリビアが倒れた時以来だ。エレンはオリビアに何かあったのではないかと慌てて家の中へ戻る。


すると、慌てて駆けてきた夫は泥だらけのエレンの手を気にもせず握った。そうして、手を握り涙を流すばかりの夫を引き剥がすと、何が何だか分からないままオリビアのところへと急いだ。



「お母...さま...?


私の可愛いアンはどこ...?どこなの...?」



オリビアが起き上がり、キョロキョロと目だけでアンを探していた。アンと同じくすんだプラチナブロンドの髪は、ツヤがなく掻きむしったような状態だった。



「...っ!


あ、お、オリビア...?オリビア...!!オリビア...!!!」


エレンは名前を呼ぶ事しかできず、大粒の涙を流して咽び泣いた。


「オリビア...苦しかったね...そうだね、アンに会いに行こう...!!」


エレンはそっとオリビアを抱きしめた。




()()()()、馬車の準備を。アンのところへ皆で行きましょう。」


まだキョトンとするだけのオリビアの髪を優しく手で梳くと、エレンは夫に向かって優しく微笑んだ。






()ーサー

エレ()



2人の偉大な魔法使いの名前からとったのが、アンの名前の由来だった。


『敬愛する魔法使い夫婦のように、人生の初めから終わりまで、どうか幸せであってほしい』


そうオリビアが心から願い、アンに渡した初めての贈り物だった。


アンが初めてその話を祖父母から聞いた時には、前世の言葉でも初めの一文字と終わりの一文字。美しい偶然に心が擽ったくなったものだった。




...




一方、アンの部屋に今日も護衛騎士がやって来た。今日は護衛一人だけではない。


「アン、マークだ。今日はいい日だな。」


「お久しぶりです。ジャスパーです。新作の魔道具を見てもらおうと思い、参りました。」


珍しい来客に、アンがピクッと動いたような気がした。だが、それだけだった。


ジャスパーがアンの心が壊れた姿を見るのは初めてだった。


マークは、ジャスパーと白タヌキに目配せすると、白タヌキはアンの膝から飛び降りた。


マークはアンの後ろに位置どり、ジャスパーは前に立った。ジャスパーの影になり窓の外も見えないはずだが、アンの目線はそのまま真っ直ぐ前に向けられたままだった。


ジャスパーは悲しげな顔をすると、掌でアンの虚な両目を上からそっと塞ぎ、魔道具を使おうとした。その時、アンが久しぶりに声を発した。


「もう()()()()()...?どうか、私を逃して...。」


皆、その言葉に背筋が凍った。そして、急いでジャスパーは魔道具を発動させた。


アンはそれを抵抗なく受け入れると、ガクンと身体から力が抜け落ちる。ぐらりと身体が横に倒れそうになったところを、マークが支えて抱き上げた。


そのまま眠るアンをそっとベッドに寝かせる。アンに布団をかけると、マークもジャスパーも唇を噛み締めてうっすらと涙を浮かべた。例え、ジャスパーの使った魔道具が暗殺用のものであったとしても、アンは抵抗なく受け入れたのだろうと嫌でも理解してしまった。


アンの発した一言は、()()()()()()だった。


やはり、今はこれが最適解だったのだと二人は理解する。




これが、点滴などないこの世界でのギリギリの延命措置なのだ。




所謂、仮死状態である。




アンはそのまま、深い深い眠りに落ちていった。



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