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魔法の紅茶専門店  作者: ミイ
88/139

088.身を潜む



...




それから、数ヶ月後が経った。








ウィル達の説得も虚しく、アンは王宮内に身を潜めて暮らしていた。


アンのいなくなった紅茶の専門店には、ウェイトレスとして下級層の子供達数名が来てくれていた。アンはそこに毎日紅茶やクッキーを作って送る事で生計を立てている。


王宮内にいるため、王国からアンには公爵家並みの生活ができるだけのお金は渡されている。けれども、アンがそれに手をつけることは決してなかった。それを全て今回の被害にあった人達に回してほしいと、貯め続けるだけだった。




「ぶにゃあー...?」

白タヌキは紅茶作りをするアンの足元で鳴いた。


「白タヌちゃん...また心配してくれてるの?でもね、もうあそこには戻れないわ。私が魔法使いである限り、王宮にさえいれば安全だもの。


そうすれば...この国は平和だわ。」


アンは微笑みながら話すが、その顔はとてもとても暗かった。


あの時、家を失い泣き崩れる老夫婦がいた。産まれたばかりの子どもを連れて、命からがら家から逃げ出した夫婦を見た。以前、自慢の店が出来たと涙ながらに開店を喜んでいた店主が、燃える店の前でなす術もなく佇んでいた。それらの人々の顔が、アンは忘れられなかった。


フウ達もアンがふさぎ込むようになってから、二度とあんな風に怒らないと、数え切れない程に説得した。




「僕たちのせいだ〜」

「どうやってもダメ〜」

「精霊なのに無力〜」




グスングスンと精霊達は時折泣いていた。その度にビショ濡れになるのは白タヌキの背中なのだから、白タヌキは濡れた枕にされないよう緊急脱出するようになっていた。




アンの元にはカゲやチャプを連れたヘンリーとノワールもやって来て、身を潜める必要はないと声をかけてくれていた。


あの時の出来事は、きっかけは精霊達の怒りではあったが天災でしかないと説得もした。


白亜の本屋の店員達も、時折お土産を手にやって来てはいつでも戻ってきてねと声をかけて帰る。




その皆の優しさが、なおアンの意思を頑な(かたくな)にしていた。


アンはそんな優しい人達だからこそ、今後また危険に晒したくはなかったのだ。













それからーーーーー










更に1年の月日が経った。












アンは王宮の離れで毎日穏やかに過ごしていた。侍女や衛兵、騎士、王宮で働く者皆がアンに親切にしてくれた。精霊達も毎日謝ったり励ましたりしてくれている。



「最近ね、日々生きている実感が持てないの。」

ポツリとアンはその可愛らしい唇から言葉を発した。


その言葉に、白タヌキは危機感を持った。


アンにとってあれ程煌めいて見えていた風景も、最近はセピアにしか見えない。王宮の美しい庭園にも魅力を感じない。食事をとっても味は感じず、うまく眠ることができない。


治癒の領域は自分以上に得意な者は存在しないと分かっている白タヌキだが、心までは癒せない。苦し紛れに治癒魔法を毎日毎日かけるのだが、心が身体にかかる治癒魔法すらも拒んでいるような状況だと理解していた。


周りの人々も、目に見えて笑顔が減っていくアンの様子に、医者をよこしたり楽しい話を聞かせたりと手を尽くすようになった。



祖父母は、そんなアンの様子を精霊達から聞き、帰っておいでと手紙を寄越した。




「皆が言うように、王宮から出た方が良いのかもしれない。でも...。」


アンは毎日のように考えていた。


それでも、そのたびにあの日の光景が頭を過ぎり、長い爪で抉られた頬をそっと押さえた。






アンは自身の魔力の強さが恐怖に変わり、己を蝕んでいった。





そして、食事を口にする事も少なくなり、自分ではどうする事もできなくなっていったーーーーー。




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