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魔法の紅茶専門店  作者: ミイ
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087.望まない、望めない


アンは一度家に戻ると、今日中に白亜の本屋にだけは行かなければと考えていた。あれ程の迷惑をかけ、怖い思いをさせてしまったのだ。早く皆に謝りたい。


だが、時間は既に閉店時間間際である。


「フウ、プウ、ブウ、今からでも間に合いそうか分かる?」


「ちょっと待ってね〜


...うん、大丈夫そうだよ〜。」


フウが下位精霊に確認してくれた。


アンはグレイソンからもらった服を脱いで大切にしまうと、上から被るだけの簡単なワンピースを着て急ぎ家を飛び出す。


白亜の本屋に着くと、「本日紅茶専門店のみCLOSE」という張り紙が貼ってあった。


その文字に少し胸が痛み、アンは眉を下げる。被害妄想なのは重々理解しているが、白亜の本屋が大切な存在であるが故に、自分だけが仲間外れのような、そこにあってはいけない存在のように思えてしまう。




皆、既に帰る準備をしていた。




僅かに躊躇った後、少し緊張感のある声で、

「あ、あの!」

と、アンが誰にともなく声を掛けると、皆驚いた顔やホッとした顔、様々な表情で振り向いた。


「わわっ!?」

アンは後ろによろめく。


「〜〜〜っ!バカっ!」

1番に駆け寄ってくれたのはクロエが、細いアンの首に手を回しギュッと抱きしめた。クロエの豊満な体で少し苦しい。


「おかえり、もう平気なの?」

アンの後ろから声がした。

優しい、陽だまりのような温かい声でテディが気遣ってくれたようだ。


「俺...!倒れたって騎士から聞いて、スゲェ心配したからな!」

ジョシュアが心臓に手を当て、ゲンナリした顔をした。


「ご無事で...!何よりです...!!!このジャスパー、貴方様の危機にバカンスなど、万死に値します!!!どうかこの私めを...グエッ!」

ジャスパーが猛烈な勢いで何か喋りつつアンの足下に迫るので、即座にウィルが踏み潰した。


「おぅ、無事で何よりだ。ノワールから火事は全部おさまったって伝言鳥届いてたぜ。お前も相当無茶したんだったな。グレイソンが説明しに来たぜ。」

ウィルはアンの頭をウリウリと撫でた。髪がクシャクシャとなるが、親しみを込めたその行動にむしろ嬉しい気持ちになった。




変わらない皆の優しさが、こんなにも嬉しい。アンの大きな瞳に涙が溢れそうになってクロエをギュッと抱きしめ返した。




だが、アンは言わなければならない。



「ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした!!


私がここに来なければ、こんな事にはならなかったはずです。ダメになってしまった本や...花は...弁償させて下さい...!」


アンはそこまで言うと、堪えきれずに涙が溢れた。

ウィルとの出会いから、今までのことが頭を過ぎる。どれもこれも大切な思い出だ。初めて家を出たアンにとっては、ここが家のようなものだった。


途中魔力切れで眠りについてはいたが、それでもアンは今の今まで緊張の糸が途切れていなかった。ポロポロと落ちてしまう涙に、続きを言うことができなくなった。



「...っ!み... みじ...かい...間でしたが...!!」



皆はまさか、とアンを見た。深刻な雰囲気に、クロエも一度アンからそっと離れる。アンはポロポロと涙が溢れて止まらない。顔をグシグシと腕で拭うようにして涙を止めようと必死になる。


ここで泣くのは、許して欲しいと言っているようでズルいと思った。あんなに迷惑をかけたのだ。貴族を敵に回すような事をしてしまい、皆に何かあったらどうしていただろうと考えるとゾッとした。



「あのなぁ...。」


ウィルはガシガシと頭を掻くと、アンの肩に手を置いた。


「...アン、お前の王都での居場所は"ココ"だ。今までもこれからも、それでいいんだ。魔法使いだからって構える必要はねえだろ。」


アンはその優しい優しい言葉に、涙が溢れ、ブンブンと首を横に振る事しか出来なかった。


自分が上手く危機回避をできなかったために、精霊達を嗜めることもできなかったために、此処だけではなく王都中を危険に晒したのだ。


アンはどれ程街が荒れ果てたかを見てしまった。古い建物は屋根が吹き飛ばされ、木造の物はいくつか焼け落ちていた。


落雷が始まってから人々はすぐに建物に避難したため、人的被害は少なかった。だが、今回の事で家が焼け落ち、長年住んだ大切な家から出なければならない者も何十人といた。燃える家の前で立ちすくむ人々、産まれたばかりの子供を抱いて必死に逃げる夫婦。


大切に育てた作物が、大量の雨と雷でダメになった農家もいた。家畜やペットが被害にあった家もある。


それらの被害を受けた人々はセヴァーン子爵の賠償金で全て補填される上、既に仮の住まいを王国から充てがわれているらしい。





それでもアンは、自分がその人達の生活を奪ったのだとハッキリ理解した。




「アン、明日からまたいつも通りにいてくれたらいいのよ?あなたがいてくれなきゃ。」

クロエがもう一度アンを抱き寄せる。


「アン、君がいなかったらつまらなくなっちゃうよ。今更ただのランドリー屋でのうのうと暮らすなんてごめんだよ!」

テディも茶化すように微笑む。


「ホントだぜ。俺がマズいコーヒー出したら客がいなくなっちまうだろ!」

ジョシュアが笑ってアンのオデコにデコピンをお見舞いした。


「ポートマン様のご加護がここになくなってしまうなど、私めはどのやうにして生きていけば宜しいのでしょうか!?もはや貴方様と私は...!ゲフッ」


「重すぎるよ、ジャスパー...。」

ジャスパーはテディに回し蹴りをくらった。普段はゆるふわなテディの身体能力の高さが垣間見えた。




その様子に、アンはフフッと笑みが溢れた。涙は止まらぬが、自分にとってこの場所と、この人達ざ大切さである事にはこれからも変わりないのだと思えた。




皆、笑うアンの様子に少しホッとした。









だが、アンが白亜の本屋に居続けるという事は、ここに爆弾を置き続けるようなものだ。





アン自身が、それを望まなかった。




もうすぐ1話を書き始めた時から構想していた部分に踏み込めます。想定より話数必要だったなぁ...(笑)


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