086.もふもふは割り込む
アンがグレイソンの行動に驚いて目を瞑った次の瞬間。きゅっと身を硬くして、それでもグレイソンを拒まず目を瞑ってくれたアンに対し、グレイソンは愛しさが溢れた。
透明感溢れるプラチナブロンドの髪を、うなじから背骨の方へと指を絡ませ静かに撫ぜれば、アンの肩が少しビクッと上下した。そのまま髪を靡かせると、ふわりと花のような香りがした。
そして、グレイソンは長い睫毛と、きゅっと軽く結ばれた僅かに震える桜色の唇に見入った。あぁ、初めて出会った時から変わらず、人間離れした美しさだなと考える。
そして、ほんの僅かに首を傾け...
ようとした時。
足元のもふもふとした感触に気付いた。
ぎゅむぎゅむっとこの場に相応しくないもふもふの割り込みに2人は驚く。
グルグル...
と獣の声で白タヌキが2人の間にぎゅむぎゅむと割り込み、アンに擦り寄ったのだ。
白タヌキの姿で2人の足元に入り込むと、その場で白虎の姿に変わったため、グレイソンだけが後ろにボンっと弾き飛ばされた。
「あだっ!?」
グレイソンは鍛え上げた反射神経も虚しく、後ろに転がり受け身を取った。
白虎はすぐに白タヌキの姿に戻ると、「心配したんだぜ?」と言うようにアンの腕の中に飛びこんだ。
「...白タヌちゃん!!!心配してくれたのね!なんて可愛いの!ありがと〜!森に行くまでもその後も沢山助けてくれてありがとう!」
アンは白タヌキをめちゃめちゃに褒めながら頬擦りをする。正直まだ心臓がバクバクと音を立てていたため、白タヌキはとても癒しになった。
(私、なんて愚かな妄想を...!)
アンは一瞬でもグレイソンから口付けをされるのではないかと思ってしまった自分に恥ずかしくなった。耳まで赤く染まった自分を隠すように、白タヌキにすがった。
王国騎士団の騎士団長が、しかも王家の人間が自分と親しくしてくれるだけでもキセキのようなものだ。更に神さまや精霊にも例えられる美しさのグレイソンであれば、女性からの求婚も絶えない。
あれが口付けをするつもりでなかったのなら、何をしようとしていたかは分からない。でも、自分がそのような烏滸がましい考えを持つ事すら憚られた。アンは恥ずかしすぎて、少し涙目になった。それと同時に、何か期待...のようなものをさせたグレイソンにわずかに苛立ちを覚えた。
グレイソン本人は、そのつもりでしかなかったので、起き上がるとあぐらをかいて白タヌキを睨む。
「ちっ」
グレイソンが白タヌキに舌打ちすると、白タヌキがフシャーーーッ!とグレイソンを威嚇した。
「えっ...と...?仲良く、ね...?」
アンが驚いて白タヌキを嗜めると、にゃご〜っといい子ぶるもんだから、グレイソンはますます白タヌキに腹が立ってきた。
「団長さん、また助けて頂いてありがとうございました。後日、改めてお礼をさせてください。服もその時にお返しするということでも大丈夫でしょうか??」
アンは平然としたフリをしながら尋ねた。3日前に走り回り、泥や煤、枝に引っ掛けた記憶があり元の服に着替えるのは諦めがついていた。
「服は私からの贈り物として貰って欲しい。お礼なら...。」
グレイソンはチラリと白タヌキに目をやるとニヤっとした。
「2人きりで、また食事を。」
グレイソンの意外な要求に対し、そんなことで良いのかと思いつつも、魔法の紅茶やクッキーをお土産にすれば...と考えアンは快諾した。
これには白タヌキがワナワナと震えたのは言うまでもない。
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