083.グレイソンと白虎
...
「やあやあ待たせたね〜君達どうしたのさ!すごい雨と雷だったよ〜。ノワールに被害があっても嫌だから、雨は勝手に調整させてもらったよ。あらら?アンは魔力切れ?」
チャプは現れるとすぐ、ただの世間話のように風の精霊達と話しはじめた。
「ごめん〜」
「アンがガリッてされて〜」
「ムカついたの〜」
「「「これ消して〜」」」
精霊達はションボリした顔で森を指差し、チャプに鎮火をお願いした。
「はいはい。ノワールの事で僕も同じ事があれば、気持ちは分かるからね。よっと!」
チャプはバケツをひっくり返したような大雨をザバンッと西の森中に降らせた。
精霊達の会話が聞こえないグレイソンは、突然ザバンっと森の入り口から奥だけ豪雨が降った事に
「な!?これは...!?」
と目を丸くした。
それから、チャプは加減をしつつも火を消せるくらいの雨を王都中に降らせたのだった。
雨はグレイソンとアンの顔にも、際限なく滴り落ちる。アンの顔に付いていた泥が、雨で少しずつ落ちていく。それをグレイソンはそっと指の腹で拭いてやった。アンの長い睫毛に水滴の玉がついてゆく。
チャプが見えないグレイソンは、ひとまず白タヌキに向かって
「これで火災はもう大丈夫という事か...?」
と半信半疑で尋ねる。
白タヌキはジッとグレイソンを見つめると、
馬から飛び降りた。
「っ!?」
グレイソンは目を見張った。
白タヌキが飛び降りるとすぐに、神秘的な白虎が目の前に佇んでいた。
更に、その白虎が口を開くなどとは、思いもしなかった。
「既ニ...ミ ズノ精霊
対処シタ...
アンヲ安全ナ処へ
ミッカ ハ眠リニツク ダロ ゥ」
地鳴りのような唸り声のようなその声はヒトの言葉を発し、必要な情報をグレイソンに伝えた。
白虎は再びグレイソンの顔を刺すように見つめると、目を糸のように細めた。
そして、また小さな白タヌキの姿に戻ると、「疲れた。早く行け。」と言うようにぶにゃんと鳴いて馬に飛び乗った。
グレイソンは神々しい白虎の姿を思い出しながら、穴が開くほどに、揺れるもふもふの白い背中を凝視した。
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