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魔法の紅茶専門店  作者: ミイ
81/139

081.罪状



...



子爵夫人が次に目覚めた時、そこは謁見の間だった。


「...こ、ここは...?」

子爵夫人が起きあがろうとすると、ガシャリと音が鳴り、鼻から床に転ぶ。暫くの間痛みに目が潤んだが、その腕は後ろに回され枷が嵌められているのだと言うことに気付く。


気付いたのだが、夢か現か全く理解が追いつかない。


「罪人。口を慎め。陛下がいらっしゃる。」


真横に立つ美しい顔立ちをした金髪の騎士は、冷え切ったブルーの瞳で夫人を見下ろす。瞳は深い海の底のように冷え切っており、夫人は恐怖に震えた。


荘厳な謁見の間の雰囲気と、あまりに見目麗しい騎士がいる事で、よりここが夢か現か分からなくなってくる。


そして何より、今、この騎士は私を見下ろし"罪人"と言わなかったか。



すると、その騎士の更に奥側に何かが転がる音がした。

「...ぐわっ!」


「...あなた!?」


夫人の横には同じく枷を嵌められたセヴァーン子爵が、何者かによってドサッと乱雑に放り投げられた。太った身体は上手く受け身を取る事もできずにみっともなく転がった。


そして、その横に立つ夫を放り投げた男に目をやると、あのヘンリーだと分かり背筋がゾクリとした。


屠殺場にいる家畜の気分とは、このようなものだろうかという考えが過ぎる。


夫人は頭を振って、何故、一体どうして、と唇を噛んで考える。何度目を開けたり閉じたりを繰り返しても、どうしようもなく現実だった。


たしか自分は最近王都一との噂の紅茶屋にいた筈だった。それが、あの娘に関わってからおかしな事が起きたのだ。


「お前!!!何をしたのだ!!!この役立たずの分際で!」

声を顰めつつも、長年共に過ごしたはずのセヴァーン子爵から怒りを露わにした罵声が飛んできた。



すると、黙れとばかりに騎士達が2人を硬いブーツの踵で押さえ付けた。


「ぐあっ!!」と夫の醜い声が響く。




重い、謁見の間の扉が開く音がする。


ゆっくりと、国王陛下が進み、玉座に座った。


夫人は状況も飲み込めないまま枷を嵌められ、床を見つめて考える。横にいる夫は、贈収賄、税の水増し、非合法な人身売買などが咎められたのだろうと想像が付いた。婚前からその悪評は耳に届いていた。


だが、それで直接関わりのない自分まで枷を嵌められるなど、あまりに納得がいかない。


元々愛もない政略結婚の夫など、いつでも捨てられるよう準備は整えてあったのだ。



「セヴァーン子爵、そしてその夫人、か。やってくれたものだな。」

国王の冷淡な声が響く。


まず先に、ヘンリーにより淡々と夫の罪状が明かされていく。こちらはやはり想定内だった。知らなかった事も幾つかあったが、そんな事はどうでもよかった。




だか、その後の自分の罪状については思いもよらないものであり、


その罪の重さに身体の芯まで冷え切り



声が出ない程に身震いした。






「罪状はーーーーー。


"魔法使い"への冒涜及び暴行。」






"魔法使い"とはどういうことか。

魔法使いの冒涜、暴行など、国を揺るがす事態であり、死刑に値する。どれ程良くとも終身奴隷である。そのくらい、この国の国民であれば大人は誰しも理解している。子供ですらその崇高な存在は、語り伝えられている事だ。



その場の地面がすべて崩れ去るような感覚に襲われ、夫人は呼吸が浅くなりヒュウヒュウと口から息を吸った。今まで命乞いをする領民達に、何の躊躇いもなく処分を言い渡してきた。その度に命乞いをするなど、穢らわしいと一蹴してきたはずだった。


ショックを受けた時には、周り全てが色褪せて見えるという表現は文学ではよく目にした。


だが、実際にその状況になると、薄れるどころか目の前全て真っ暗だ。


これほど荘厳に美しい謁見の間ですら、もはや処刑場のようにしか思えなかった。


目を見開き汗を垂らしながら横を向くが、夫は既に何度も何度も額を床に打ちつけ、取り乱している。見苦しいと騎士が縄を引っ張り上げたのは見えた。





この場に自分を守ってくれるものなど、誰もいない。自ら陛下に命乞いをするほかない。





かろうじて、震える唇から声が出るようになった。




「お...お待ち...く、ください...。


わ、私めは...魔法使い殿の立場、尊厳、り、理解しており...ます...!!その様なことは、決して、決して致すはずが、ございません!」




夫人は目をぐっと見開き、下唇を噛んだ。潔白を証明するかのように、背をぐっと伸ばすと騎士に縄を引かれ、後ろにドタッと惨めに転がった。



「貴様が...頬に傷を付けようとした者が、そうだ。」

ヘンリーはこの場にいる全員にはアンの存在を悟らせないよう、オブラートに包んだ物言いをした。


だが、覚えはないか?などと決して疑問形にする事はない。全てが断定的な言葉で進んでいく。




その言葉を聞いて、まさか、と夫人はヘンリーを見つめた。()()()()()()()()()()()が頭によぎった。



「その者は未だ魔法使いとして公表はされていない。知らなかったという事は致し方ない。」


その言葉に一瞬の希望を見出し、夫人は「では!!!」と悲鳴に近い声をあげた。それに対し、より一層冷めた目で国王は夫人を見下ろす。


「...発言を許した覚えはない。知らなかった事は致し方ない。だが、かといってその罪は決して軽くない。例え魔法使い相手でなくとも立場を利用した脅迫及び暴行は人の上に立つ者のする事ではない。


それ以外でもこれまでの贅を尽くした貴様によって、どれほどの民が苦しめられたかなど考えた事もなかっただろう。貴様に仕え、嬲られ虐げられてきた者達も、全てを懇切丁寧に証言してくれている。証拠書類も回収済みだ。


そして、何より。


最高位精霊様を敵に回し、国中に雷の雨を降らせたのも貴様だ。魔法使い様自身でその被害地域を周り対処して下さったが、農作物や森林、家畜等への被害は全てセヴァーン子爵家の取り潰しと売却により賄う。


国内...いや、史上最高クラスといっても過言ではない魔法使いを手にかけた罪。ゆめゆめ()()()()()だけで済むとは思うな。」




その言葉に、子爵夫人は力なく頭を床に落とした。



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