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魔法の紅茶専門店  作者: ミイ
80/139

080.安寧

評価、ブックマークありがとうございます!



「アン、ごめんね〜」

「ごめんなさい〜」

「ごめん〜」



精霊達がばつの悪そうな顔で、アンに近寄ってきた。纏う空気は、いつもの温かく柔らかな春風のようになっていた。先程までの異質な荒々しい北風とは異なる。


「皆私と白タヌちゃんのために怒ってくれたのは分かっているわ。もう大丈夫、大丈夫だからね。あなたたちのかけてくれたプロテクションは、これくらいじゃ破れないでしょ?」


アンは手のひらの上に精霊達を乗せて宥めると、ホッとした表情で抱きしめた。フウ達は実態を撫でる事はできないが、そっと風でできた層を包むように抱きしめた。


そして、風の精霊達が猫がゴロゴロと喉を鳴らすように、アンに頬擦りしてきたところで、ウィル達にもう大丈夫だと目配せした。


ウィルたちもようやく強張った肩を弛ませた。


それでも、アンは自分にもしもの事があれば、国中に止まぬ落雷の雨が降り注ぐのだと理解してしまった。心臓の動悸が酷くなり、再び手の震えがおきて胸の前で両手を握り締めた。


その爪は紫になり、冷え切っているのは誰が見ても一目瞭然だった。



「アンを傷付けてたら〜」

「王都を滅ぼしちゃってた〜」

「アンのプロテクション強化しよ〜」



反省しているようでしていない精霊達に、白タヌキは馬鹿者!というようにギロっと睨んだ。


冗談のように言う精霊達のその言葉に、アンは笑うことができなかった。唇まで真っ青になるのが自分でも分かる。



「アン...その、顔は?どこにも怪我はない?」


テディやジョシュアが心配そうに顔を歪めてアンの頬を見つめる。クロエは何も言わずにアンの両手に手を重ね、ギュッと温めてくれた。


「えぇ、もともと精霊様がプロテクションの魔法をかけてくれてたから。それよりは...国が滅びなかったことに心から安堵しているわ...。」



その言葉に、笑い飛ばす余裕もなく、ただただ全員の顔が青褪めた。



雷雨がおさまってから、ようやく店内からも外が見えるようになった。皆が顔を外に向けると、風で折れた太い枝が向かいの建物の扉に刺さり、夫人の馬車は落雷で後輪あたりから火が出ていた。どこかの店の看板も、白亜の本屋の前にひしゃげて落ちていた。


遠くでは、「火事だ!水を!」という声が聞こえる。


ここだけで大災害級の被害だ。街全体を見渡せばもっと酷いのだろう。


恐る恐る街の人たちが外に出て様子を伺っていたが、突然の天災に大人たちだけではなく子ども達も怯えていた。




「うっ...」


夫人が少し呻き、ジョシュアはアンを背に庇った。





「アン、すまないが風魔法でグレイソンかセトあたりの騎士へ伝言を飛ばしてもらえるだろうか?コイツを正しく処罰してもらう。」


ウィルはそう言うと、夫人をうつ伏せに転がし、両手を縛り上げた。


それにはさすがに従者達も動こうとしたが、ウィルに睨み付けられ、すごすごと下がるしか出来なかった。


アンはウィルに言われた通りに、すぐに風魔法で騎士団へ連絡をした。



...



同時刻、王宮。


「...っ!おさまったのか...!?」

国王はヘンリーに声をかける。


激しい突風と落雷で、国王の部屋も一部ガラスが砕けていた。ヘンリーはいても火の魔法は室内では防御に使えない。国王は咄嗟に侍女達を自らの背で庇っていたが、おさまった事を確認して立ち上がった。


側近達は、国王に侍女を庇わせてしまったことに顔が青ざめた。だが、国王本人はそんな些末な事は全く頭にない。


「ヘンリー、何が起こった。」

国王はヘンリーを真っ直ぐに見据えて尋ねた。


「カゲ曰く...アンの身に何かが起きたのだろうと。」

ヘンリーは怒りを露わにした険しい表情で答えた。


ヘンリーが腕を外に向かって振ると、火の下位精霊が外に飛び出した。


「これだけの天候操作は下位精霊ではあり得ないだろうなぁ。こんなに風の奴らを怒らせたのはどこの馬鹿だ。」

カゲはケッと言うと、ヘンリーの頭に登った。大雨は相性が悪い。為す術なくヘンリーの懐に隠れていた。



...



既に外は元通りに晴れ渡っていた。


ジョシュアは急ぎ馬車に繋がれたままの馬を、燃える馬車から離した。白タヌキはアンの膝から降りると、急ぎ馬に息をフゥッと吐きかけ治癒を施した。足がピクピクと動いているため、何の罪もない馬は一命は取り留めたようだ。


「私は...雨風と落雷の被害状況を見て、それから王宮に説明に赴きたいと思います。」



ウィルは黙って頷くと、アンの背中を見送り白亜の本屋の看板を閉店にした。アンの後ろには白タヌキが続いた。



そして、アンからの伝言を受けた騎士団が馬を飛ばして来たのは、それから間も無くの事だった。



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