008.出発の日
フウ・プウ・ブウの3匹は、チョコレートクッキーをもらってから更にアンに懐いた様子だった。王都への出発の準備をするにも、重たいものは全て風で運んでくれた。
(魔法使いって意図的に魔法を使うものでは...??)
アンのイメージする魔法使いと、実態が若干ズレている気がしたが、前日は荷造りのチェックに忙しいため考えるのを放棄した。
...
そしていよいよ18歳の誕生日。空は晴れ渡っており、時折強い風が吹く日だった。祖父母とフレデリカに見送られ、馬車に乗りこむ。そして、馬車から身を乗り出して別れの挨拶をした。
「...おじいちゃん、おばあちゃん行ってくるね。あのね...今まで育ててくれてありがとう、本当に感謝しているの。お母さんの事も...ごめんね、よろしくね。」
アンは2人の手をとりながら別れを惜しんだ。
「そんな永遠の別れのようなことを言わないでおくれ、私たちも悲しくなってしまうよ。お前の母さんの事は安心して任せな。」
祖母は強がりつつも、胸中は決して穏やかではなかった。
「そうだ、ばあさんの言うとおり。辛くなったら一時的に帰ってくることだってできるんだ。王都はこんな田舎のように人の良い人間ばかりじゃない。悪意をもった人間にも、気をつけていかなければならないよ。」
祖父母は愛しい孫が出発するのに、名残惜しそうに手を握り返した。
そして、フレデリカは涙いっぱい浮かべてアンに別れのハグをした。
「アン、ずっと一緒にいてくれたあなたがいなくなることが、本当に寂しくて...心配なの!手紙をたくさん書くわ。」
「フレデリカ、ありがとう。私もあなたがいてくれたから、毎日が楽しかったの。私も手紙をたくさん書くわ!」
アンも同じように涙を浮かべながら別れを惜しんだ。そして、今一度祖父母に向き合うと、
「お母さんにも...よろしくね。」
と再び言うとハグをしていたフレデリカから身を引いた。
「それじゃ、行ってきます!」
アンは目いっぱい3人に向かって、馬車の中から笑顔で手を振った。そして馬車にはつむじ風が乗り込んだ。その様子を見て、祖父母は肩の力が抜けたようだった。きっと精霊達がアンのことは守ってくれるはずだと。
これから、アンは冒険の旅と新たな人生が始まるのだ。ひとりの大人としても、魔法使いとしても。
...
ガタガタと馬車は進んでいく。
アンは馬車の中ではほとんどフウ・プウ・ブウと喋って過ごしていた。可愛い妖精のような3匹と語らう楽しさに、お伽話に夢中になっていた頃を思い出す。
「フウ・プウ・ブウはとーっても可愛いわね!年齢ってどのくらいなの?」
アンは目を輝かせて尋ねる。
「年齢〜?」
「う〜ん」
「風ができたとき〜?」
3匹は頭を悩ませてしまった。ちなみに、喋る順番はいつもフウ・プウ・ブウの順番である。
「あ、ごめんね、無理に思い出さなくても大丈夫だから。なんとなく聞いてみたの。」
アンは、悩みすぎて腕を組んで地面にめりこみそうなほど首を左に傾げる3匹が可愛くて笑ってしまった。
「あ、アンが笑った〜」
「このポーズすると笑ってくれるの〜?」
「じゃあアンのためにずっとこのまま〜」
アンが笑ったことに機嫌を良くした3匹が首〜腰が痛くなりそうなポーズを続けるので、アンは笑いつつも慌てて止めに入った。
そんなこんなで王都まではあと2日というところだった。旅路は順調そのものだった。
途中、怪しい男が馬車を止めるまでは。
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